閑話往来
   ギリシャ神話と日本人
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 よく知られているように、古代ギリシャ人の信仰は多神教でした。古代ギリシャの神話と伝説に関するカーカップの著書(1983年)には、ギリシャ人の宗教観について、次のように書かれています。

The Greeks still believe, even in these hardheaded modern times, that all nature—trees, rivers, rocks, clouds and everything in nature—is inhabited by gods and spirits. So it is natural that they should create legends in which human beings become flowers, trees and animals.

("THE GLORY THAT WAS GREECE" by James Kirkup)

【試訳】 この世知辛い現代においてさえ、ギリシャ人は森羅万象に、つまり木々や川や岩石や雲といった自然界のすべてのものに、神々や精霊が宿っていると信じている。だから、人間が草花や樹木や動物になるというような内容の伝説をギリシャ人が作り出すのも当然といえる。

 ギリシャは、東ローマ帝国時代の中期(610年頃-1204年)にはすでにキリスト教圏に入っています。それにもかかわらず、今もなおギリシャ人がこのようにアニミズム的な多神教の信仰心を保ち続けているとすれば、たいへん興味深いことだと思います。というのは、古来日本人の根底にある宗教観と共通するものがそこに見出せるからです。ギリシャの遥か北方に広がるゲルマン人の森も、昔をたどれば多くの神々が住む多神教の世界だったといいます。それがやがてキリスト教化しました。
 他方、日本では歴史的にキリスト教が国教になることはありませんでした。1970年代に刊行されたE・O・ライシャワーの著書 "THE JAPANESE" によれば、現代日本におけるキリスト教徒の人口は次のとおりです。

Even today its adherents number only around three quarters of a million—less than 1 percent of the population—divided fairly evenly between Protestants and Catholics.

("THE JAPANESE" by Edwin O. Reischauer, p.221)

【試訳】 今日でさえキリスト教の信者はおよそ75万人程度、つまり全人口の1パーセントにも満たない数であり、しかもほぼ均等にプロテスタント(新教徒)とカトリック教徒に2分されている。

 ここに示されたキリスト教徒の数は、おそらく21世紀になった今も大きな違いはないでしょう。
 ヨーロッパにあるギリシャと東アジアにある日本とは互いに遠く離れています。また、たどってきた歴史的な道筋も大きく異なっていますが、日本人がギリシャ神話を読んで親近感を覚えるとすれば、それは記紀万葉の時代以前から自らのDNAに刻み込んできたと思われる素朴な自然観や人間観と共鳴し合う要素が、それぞれの物語のなかに多分に含まれているからではないでしょうか。

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北辰メディア
   
(2005/08/12更新)
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