則天去私の文学論 『日本篇:俳諧狂句』

長谷部さかな 著

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花より団子
   2017/6/12 (月) 06:51 by Sakana No.20170612065129

06月12日

・花よりも團子やありて帰る雁 松永貞徳

  「花より団子」ということわざはいろは歌
留多でよく知られているが、「帰る雁」を付
けると、詩になる。「帰る雁」は「春霞立つ
を見捨てて行く雁は花なき里に住みやならへ
る」という有名な古歌(作者は伊勢)をふま
えているという。
 しかし、北の方に花よりも好きな団子があ
るから雁が帰っていくというと理屈っぽい。
理屈は詩と両立しにくい。
  松永貞徳(1571年-1654年)は貞門派俳諧の
祖。俳諧には俳言といって和歌・連歌には用
いない俗語・ 漢語を使用するべしと主張した。
季題や季語を使用するべしではない。季語と
俳言とはちがう。たとえば、「花」や「帰る
雁」は季語で、「団子」は俳言だと思う。


尿前
   2017/6/9 (金) 06:10 by Sakana No.20170609061015

06月09日

・蚤虱馬が尿する枕もと 松尾芭蕉

 おくのほそ道の旅で、芭蕉は鳴子の湯より
尿前の関にかゝりて、出羽の国に越んとした。
山中で国境を守る封人(ほうじん)の家に逗
留した。封人とは国境を守る役人。その家で
寝ようとすると蚤や虱に悩まされ、馬が尿す
る音が聞こえた。
 旅のわびしさ、さびしさここに極まれりと
いう句だが、実際に経験したリアリズムでは
なく、想像の句ではないかという疑いもある。
 その理由は、尿前という地名は芭蕉の旅以
前にあったからだ。尿前を通りかかった芭蕉
の想像力はこの地名に触発されて封人の家に
いる馬を想像し、一句詠んだのではないか。
松本清張『殺人行おくのほそ道』を読んでみ
たが、その謎解きの参考にはならなかった。


佐保姫
   2017/6/6 (火) 05:43 by Sakana No.20170606054352

06月6日

・佐保姫の春立ちながら尿をして 山崎宗鑑

  佐保姫は春の女神。前句「霞の衣すそはぬ
れけり」への付句である。春立つとは立春の
ことで、姫が立つという意味を懸けている。
姫御前が立ちながら尿(しと)をするとは行
儀がわるい、けしからんと、文句をいうのは
ヤボな人です。
 山田洋次監督の映画『男はつらいよ』でフ
ーテンの寅さんは「四谷赤坂麹町、ちゃらち
ゃら流れるお茶の水、粋な姐ちゃん立ちショ
ンベン」と言っているが、佐保姫の裔(すえ)
が粋な姐ちゃんだとすると、立ちションベン
という行為が粋に思えてくる。
 さらにつけくわえれば、寅さんは、「大し
たもんだよ蛙の小便、見上げたもんだよ屋根
屋の褌」ともいい、蛙と佐保姫を結びつけた。


盗人
   2017/6/3 (土) 07:28 by Sakana No.20170603072843

06月3日

・盗人を捕らえて見れば我が子なり 新撰犬筑波集

 江戸時代に流行した川柳の代表句だと思い
込んでいたが、実はそれ以前の足利時代の作
品。山崎宗鑑(1465? -1554年)『新撰犬筑波
集』に載っている。作者が宗鑑かどうかはわ
からない。
 盗人を捕らえてみれば我が子だったという
現代の世相でもあり得る皮肉な結果ーー自分
のDNAが伝わっているはずの我が子が盗人を働
いたのは、しつけが悪く、家庭教育に問題が
あったからか。あるいは、そもそも人間のDNA
に盗人の傾向があるのか。親の因果が子にむ
くいなのか。アダムとイブが原罪を犯したか
らか。さらに人殺しが絶えないのはアベルを
殺したカインのDNAが人類に伝わっているから
ではないかとこの狂句はいろいろ考えさせる。


『俳諧狂句』第一類 狂句 蛙篇
   2017/5/31 (水) 06:43 by Sakana No.20170531064339

『俳諧狂句』第一類 狂句 蛙篇 2017年5月

古池や蛙飛び込む水のをと   松尾芭蕉 
手をついて歌申ぐる蛙哉    山崎宗鑑?
だんびりと池に蛙の飛び入りて 竹馬狂吟集
歌軍文武二道の蛙かな     安原貞室
閣に座して遠き蛙を聞く夜かな 与謝蕪村
やせ蛙まけるな一茶これにあり 小林一茶
水がめに蛙うくなり五月雨    正岡子規
山吹や喉がふくれて啼く蛙    高濱虚子
青蛙おのれもペンキぬりたてか 芥川龍之介
蛙蛙独りぼっちの子と我と   種田山頭火

 俳諧狂句の名作十句を連作風にならべてみ
た。すべての句が蛙を題材としている。「か
わず」あるいは「かえる」と読む。川や池に
いる小さな蛙のことで、ガマガエル、食用ガ
エルなど大型蛙は含まない。



蛙10
   2017/5/31 (水) 06:39 by Sakana No.20170531063940

05月31日

・蛙蛙独りぼっちの子と我と 種田山頭火

 蛙蛙という上五は字余りだが、自由律俳句
の作者の句にしてはめずらしく定型に近い。、
  蛙の子は蛙。漂泊の俳人山頭火には息子が
一人いた。父親との縁がうすく、母親とさび
しく暮らしている。家を飛び出して、放浪の
旅に出かけたまま、行方知れずの父親は、そ
の息子に蛙、蛙と呼びかける。おまえは独り
ぽっちだが、おれも独りぽっちだ。わかって
くれ。
 山頭火の母親は、彼が十歳のとき、井戸に
身を投げて死んだ。母親の菩提をとむらいな
がら、行乞をし、俳句をつくり、酒を飲み、
放浪する。金がなくなれば、友人知人にたか
り、時には別れた妻にもたかる。そんな生き
方しかおれにはできない。わかってくれ。


蛙9
   2017/5/28 (日) 07:27 by Sakana No.20170528072731

05月28日

・青蛙おのれもペンキぬりたてか 芥川龍之介

 いかにも芥川龍之介作らしい機知に富んだ
近代的な狂句である。ペンキの語源はオラン
ダ語のpekらしい。英語ではpaint。いずれに
しても外来語であり、江戸時代の俳諧でペン
キを詠んだ句はないと思う。虚子選の「ホト
トギス」に掲載されたというから客観写生の
句ともいえるかもしれない。
 しかし、ジュール・ルナール(1864年生まれ)
『博物誌』(辻昶訳)に、
 いとかげペンキ塗りたてご用心!
がある。もしかして盗作?
 しかし、このような原作に似せた作品は本
歌取りであり、盗作とはいわない。そういえ
ば、『鼻』や『羅生門』も『今昔物語』から
の換骨奪胎。芥川龍之介は本歌取りの名人だ。


蛙8
   2017/5/25 (木) 07:21 by Sakana No.20170525072109

05月25日

・山吹や喉がふくれて啼く蛙  高濱虚子

 「古池や蛙飛び込む水のをと」について、
高弟の其角が上五に「山吹」をもちいたらど
うかといったという話が伝わっている。芭蕉
は弟子の進言をとらず、「古池」にこだわっ
たという。
 古今集の昔から、蛙は鳴くものというのが
本意ということになっているが、芭蕉は飛び
込むものとしてしまった。それはいわば俳諧
の掟破りであり、本意に照らしてみると、歌
語としての「山吹」は水の側に咲くものとい
うことで鳴く「蛙」と常に結びつけて詠まれ
てきたというのが其角の進言の根拠である。
 古池か山吹か。虚子はあえて其角の山吹
説をとり、蛙が啼くときの「喉のふくれ」に
着目して、「どや、芭蕉翁!」と挑戦した。


蛙7
   2017/5/22 (月) 07:56 by Sakana No.20170522075645

05月22日

・水がめに蛙うくなり五月雨  正岡子規

 この蛙は鳴かない。水の中に飛び込む音もた
てない。じっとして水かめにういている。降
り続ける五月雨ーーただそれだけを詠んだ俳
句であるが、古池が水がめに変わっただけで、
これも幽玄の體に眼を開いた句ということに
なるのかもしれない。R.H.ブライスの英訳を
ながめ、幽玄(mysterious profundity)につ
いて考える。すると、神秘的に深遠な古池や
水がめから蛙の歌が聞こえてくるよ。
  a frog floating    (the old pond;
  in the water jar -  a frog jumps in,−
  rain of summer      the sound of the water.)
  クヮ クヮ クヮ クヮ (ケロケロケロケロ
  ケケケケ ケケケケ      ゲゲゲゲゲゲゲゲ
  クヮクヮクヮ            ゲロゲロゲロゲロ)


蛙6
   2017/5/19 (金) 07:30 by Sakana No.20170519073023

5月19日

・やせ蛙まけるな一茶これにあり 小林一茶

  やせ蛙が手をついている姿は相撲の仕切り
をする力士のようだ。大相撲で痩せこけて弱
そうな力士が登場すると、一茶のように応援
したくなる。まぐれで勝ったりしたら大歓声。
 しかし、現実は甘くない。やせ蛙は黒星が
増えて、番付をさげ、やがて引退に追い込ま
れる。もともと相撲という競技に向いていな
かったのだ。
 そんなやせ蛙に声援を送る一茶も似たよう
な境遇だったが、俳諧の世界で名を残した。
   芭蕉(1644-1694)  風雅の詩人
   蕪村(1716-1784)  郷愁の詩人
   一茶(1763-1828)   狂句の詩人
 蛙の読みは、芭蕉「かわず」、一茶「か
える」だと思うが、蕪村はどちらだろう。


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則天去私の文学論 『日本篇:俳諧狂句』 長谷部さかな 著
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