則天去私の文学論 『日本篇:俳諧狂句』

長谷部さかな 著

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蛙10
   2017/5/31 (水) 06:39 by Sakana No.20170531063940

05月31日

・蛙蛙独りぼっちの子と我と 種田山頭火

 蛙蛙という上五は字余りだが、自由律俳句
の作者の句にしてはめずらしく定型に近い。、
  蛙の子は蛙。漂泊の俳人山頭火には息子が
一人いた。父親との縁がうすく、母親とさび
しく暮らしている。家を飛び出して、放浪の
旅に出かけたまま、行方知れずの父親は、そ
の息子に蛙、蛙と呼びかける。おまえは独り
ぽっちだが、おれも独りぽっちだ。わかって
くれ。
 山頭火の母親は、彼が十歳のとき、井戸に
身を投げて死んだ。母親の菩提をとむらいな
がら、行乞をし、俳句をつくり、酒を飲み、
放浪する。金がなくなれば、友人知人にたか
り、時には別れた妻にもたかる。そんな生き
方しかおれにはできない。わかってくれ。


蛙9
   2017/5/28 (日) 07:27 by Sakana No.20170528072731

05月28日

・青蛙おのれもペンキぬりたてか 芥川龍之介

 いかにも芥川龍之介作らしい機知に富んだ
近代的な狂句である。ペンキの語源はオラン
ダ語のpekらしい。英語ではpaint。いずれに
しても外来語であり、江戸時代の俳諧でペン
キを詠んだ句はないと思う。虚子選の「ホト
トギス」に掲載されたというから客観写生の
句ともいえるかもしれない。
 しかし、ジュール・ルナール(1864年生まれ)
『博物誌』(辻昶訳)に、
 いとかげペンキ塗りたてご用心!
がある。もしかして盗作?
 しかし、このような原作に似せた作品は本
歌取りであり、盗作とはいわない。そういえ
ば、『鼻』や『羅生門』も『今昔物語』から
の換骨奪胎。芥川龍之介は本歌取りの名人だ。


蛙8
   2017/5/25 (木) 07:21 by Sakana No.20170525072109

05月25日

・山吹や喉がふくれて啼く蛙  高濱虚子

 「古池や蛙飛び込む水のをと」について、
高弟の其角が上五に「山吹」をもちいたらど
うかといったという話が伝わっている。芭蕉
は弟子の進言をとらず、「古池」にこだわっ
たという。
 古今集の昔から、蛙は鳴くものというのが
本意ということになっているが、芭蕉は飛び
込むものとしてしまった。それはいわば俳諧
の掟破りであり、本意に照らしてみると、歌
語としての「山吹」は水の側に咲くものとい
うことで鳴く「蛙」と常に結びつけて詠まれ
てきたというのが其角の進言の根拠である。
 古池か山吹か。虚子はあえて其角の山吹
説をとり、蛙が啼くときの「喉のふくれ」に
着目して、「どや、芭蕉翁!」と挑戦した。


蛙7
   2017/5/22 (月) 07:56 by Sakana No.20170522075645

05月22日

・水がめに蛙うくなり五月雨  正岡子規

 この蛙は鳴かない。水の中に飛び込む音もた
てない。じっとして水かめにういている。降
り続ける五月雨ーーただそれだけを詠んだ俳
句であるが、古池が水がめに変わっただけで、
これも幽玄の體に眼を開いた句ということに
なるのかもしれない。R.H.ブライスの英訳を
ながめ、幽玄(mysterious profundity)につ
いて考える。すると、神秘的に深遠な古池や
水がめから蛙の歌が聞こえてくるよ。
  a frog floating    (the old pond;
  in the water jar -  a frog jumps in,−
  rain of summer      the sound of the water.)
  クヮ クヮ クヮ クヮ (ケロケロケロケロ
  ケケケケ ケケケケ      ゲゲゲゲゲゲゲゲ
  クヮクヮクヮ            ゲロゲロゲロゲロ)


蛙6
   2017/5/19 (金) 07:30 by Sakana No.20170519073023

5月19日

・やせ蛙まけるな一茶これにあり 小林一茶

  やせ蛙が手をついている姿は相撲の仕切り
をする力士のようだ。大相撲で痩せこけて弱
そうな力士が登場すると、一茶のように応援
したくなる。まぐれで勝ったりしたら大歓声。
 しかし、現実は甘くない。やせ蛙は黒星が
増えて、番付をさげ、やがて引退に追い込ま
れる。もともと相撲という競技に向いていな
かったのだ。
 そんなやせ蛙に声援を送る一茶も似たよう
な境遇だったが、俳諧の世界で名を残した。
   芭蕉(1644-1694)  風雅の詩人
   蕪村(1716-1784)  郷愁の詩人
   一茶(1763-1828)   狂句の詩人
 蛙の読みは、芭蕉「かわず」、一茶「か
える」だと思うが、蕪村はどちらだろう。


蛙5
   2017/5/16 (火) 05:49 by Sakana No.20170516054946

05月16日

・閣に座して遠き蛙を聞く夜かな 与謝蕪村

  老眼のせいで、上五を「闇に座して」と
間違って読み、遠い昔のことを思い出した。
 子供の頃、いたずらをして、倉に閉じ込
められたことがある。倉の中は真っ暗闇だ
った。座していると、遠蛙の声が聞こえて
きた。なつかしい声だ。
 やはり蕪村の句に「遅き日のつもりて遠
き昔かな」があり、二句のイメージが重な
ってくる。
 しかし、原句の上五は「閣に座して」だ。
「闇に座して」ではない。それでも悪くな
いが、「閣」だと、私には金閣寺やら銀閣
寺やら通天閣のイメージが邪魔になる。思
いきって斧正(ふせい)したいが、まさか
私が蕪村の句を正すわけにはいかない。


蛙4
   2017/5/13 (土) 05:42 by Sakana No.20170513054242

05月13日

・歌軍文武二道の蛙かな   安原貞室

 歌軍は「うたいくさ」と読む。作者の安原
貞室(1610-1673)は、江戸時代前期の俳人で、
芭蕉の先輩にあたる。
 当時の武士が文武二道をもとめられたよう
に蛙も蛙合戦と歌合戦で文武二道にはげんで
いるというような意味らしい。
  歌合戦は『古今集』序文の「水にすむ蛙の
声」から推測できるが、蛙合戦とはどういう
意味か? 解説書によれば、多数の蛙が群れ
集まって、争うように交尾することだという。
 ついでに思いついて、井上ひさしの戯曲
『表裏源内蛙合戦』を読んでみた。江戸時代
の文武両道の達人平賀源内を描いた作品だ。
表の源内と裏の源内との合戦というか会話は
面白いが、蛙合戦の意味解読の参考にはなら
ない。蛙が一匹も登場しないからだ。


蛙3
   2017/5/10 (水) 07:09 by Sakana No.20170510070936

05月10日

・だんびりと池に蛙の飛び入りて 竹馬狂吟集

 「長者のむすめ仏にぞなる」に付けた狂句。
山崎宗鑑作と伝えられる「手をついて歌申ぐ
る蛙哉」とともに芭蕉の古池句につながった。
 「だんびり」は「どんぶり」の類似音で用
いた壇毘利長者のことで、だんびりと蓮の池
に飛び込めば、長者の娘だけでなく蛙でさえ
極楽往生するだろうというほどの意味らしい。
 当時の説法説話に、「だんびり長者」なる
ものがあり、前世に三人の聖人に施しをした
ため、国王に過ぎた楽を得たと伝えられる。
 十六世紀の庶民は、この狂句で笑ったかもし
れないが、二十一世紀の庶民は手引書を読ん
で勉強しないと笑えない。狂句を理解するに
も教養がもとめられる。困ったものだ。


蛙2
   2017/5/7 (日) 06:14 by Sakana No.20170507061444

05月07日

・手をついて歌申ぐる蛙哉 山崎宗鑑?

 川柳以前の川柳的なーーつまり、俳句と川
柳が二筋の流れに分かれる以前、ともに俳諧
とみなされていた古きよき時代の狂句。
 潁原退蔵の解説によれば、『古今集』の序
文「花に鳴く鶯、水にすむ蛙の声を聞けば、
生きとし生けるもの、いづれか歌をよまざり
ける」に詠んで、蛙が手をついて鳴く格好を、
歌を申上げるとをかしく言ったのである。
 ただし、「これも宗鑑の句として名高いも
のだが、『耳無草』に道寸といふ人の句とし
て出てゐるのでなほ疑わしい」ともいう。
 作者が宗鑑か道寸かわからないが、宗鑑
(1465?-1554年)は松尾芭蕉(1644-1694)よ
りも約200年前に活躍した俳人である。紀貫
之らの『古今集』編纂は延喜5年(905年)。



   2017/5/4 (木) 11:17 by Sakana No.20170504111755

05月04日

・古池や蛙飛び込む水のをと  松尾芭蕉 

  貞享三年(1686)作で、正風開眼の句と
されている。各務支考の『俳諧十論』によ
れば、芭蕉が始めて幽玄の體に眼を開き、
「是より俳諧の一道は弘まりけるとぞ」。
 古今随一という評価は動きそうもないが、
私は単純素朴な疑問にとりつかれた。この
句は芭蕉が狂歌師竹斎のふりをやめ、狂句
を超越した句といえるだろうか、それとも、
やはり狂句の類そのものなのだろうか?
 その二年前、貞享元年(1684)の十月か
ら十一月にかけて、名古屋に滞在した芭蕉
は、「狂句こがらしの身は竹斎に似たる哉」
という発句を詠んだ。これに地元の俳人野
水が、「たそやとばしるかさの山茶花」と
七七の脇を付け、以下、五人の俳人により
三十六句の歌仙一巻を完成させている。


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則天去私の文学論 『日本篇:俳諧狂句』 長谷部さかな 著
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