則天去私の文学論 『日本篇:俳諧狂句』

長谷部さかな 著

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盗人
   2017/6/3 (土) 07:28 by Sakana No.20170603072843

06月3日

・盗人を捕らえて見れば我が子なり 新撰犬筑波集

 江戸時代に流行した川柳の代表句だと思い
込んでいたが、実はそれ以前の足利時代の作
品。山崎宗鑑(1465? -1554年)『新撰犬筑波
集』に載っている。作者が宗鑑かどうかはわ
からない。
 盗人を捕らえてみれば我が子だったという
現代の世相でもあり得る皮肉な結果ーー自分
のDNAが伝わっているはずの我が子が盗人を働
いたのは、しつけが悪く、家庭教育に問題が
あったからか。あるいは、そもそも人間のDNA
に盗人の傾向があるのか。親の因果が子にむ
くいなのか。アダムとイブが原罪を犯したか
らか。さらに人殺しが絶えないのはアベルを
殺したカインのDNAが人類に伝わっているから
ではないかとこの狂句はいろいろ考えさせる。


『俳諧狂句』第一類 狂句 蛙篇
   2017/5/31 (水) 06:43 by Sakana No.20170531064339

『俳諧狂句』第一類 狂句 蛙篇 2017年5月

古池や蛙飛び込む水のをと   松尾芭蕉 
手をついて歌申ぐる蛙哉    山崎宗鑑?
だんびりと池に蛙の飛び入りて 竹馬狂吟集
歌軍文武二道の蛙かな     安原貞室
閣に座して遠き蛙を聞く夜かな 与謝蕪村
やせ蛙まけるな一茶これにあり 小林一茶
水がめに蛙うくなり五月雨    正岡子規
山吹や喉がふくれて啼く蛙    高濱虚子
青蛙おのれもペンキぬりたてか 芥川龍之介
蛙蛙独りぼっちの子と我と   種田山頭火

 俳諧狂句の名作十句を連作風にならべてみ
た。すべての句が蛙を題材としている。「か
わず」あるいは「かえる」と読む。川や池に
いる小さな蛙のことで、ガマガエル、食用ガ
エルなど大型蛙は含まない。



蛙10
   2017/5/31 (水) 06:39 by Sakana No.20170531063940

05月31日

・蛙蛙独りぼっちの子と我と 種田山頭火

 蛙蛙という上五は字余りだが、自由律俳句
の作者の句にしてはめずらしく定型に近い。、
  蛙の子は蛙。漂泊の俳人山頭火には息子が
一人いた。父親との縁がうすく、母親とさび
しく暮らしている。家を飛び出して、放浪の
旅に出かけたまま、行方知れずの父親は、そ
の息子に蛙、蛙と呼びかける。おまえは独り
ぽっちだが、おれも独りぽっちだ。わかって
くれ。
 山頭火の母親は、彼が十歳のとき、井戸に
身を投げて死んだ。母親の菩提をとむらいな
がら、行乞をし、俳句をつくり、酒を飲み、
放浪する。金がなくなれば、友人知人にたか
り、時には別れた妻にもたかる。そんな生き
方しかおれにはできない。わかってくれ。


蛙9
   2017/5/28 (日) 07:27 by Sakana No.20170528072731

05月28日

・青蛙おのれもペンキぬりたてか 芥川龍之介

 いかにも芥川龍之介作らしい機知に富んだ
近代的な狂句である。ペンキの語源はオラン
ダ語のpekらしい。英語ではpaint。いずれに
しても外来語であり、江戸時代の俳諧でペン
キを詠んだ句はないと思う。虚子選の「ホト
トギス」に掲載されたというから客観写生の
句ともいえるかもしれない。
 しかし、ジュール・ルナール(1864年生まれ)
『博物誌』(辻昶訳)に、
 いとかげペンキ塗りたてご用心!
がある。もしかして盗作?
 しかし、このような原作に似せた作品は本
歌取りであり、盗作とはいわない。そういえ
ば、『鼻』や『羅生門』も『今昔物語』から
の換骨奪胎。芥川龍之介は本歌取りの名人だ。


蛙8
   2017/5/25 (木) 07:21 by Sakana No.20170525072109

05月25日

・山吹や喉がふくれて啼く蛙  高濱虚子

 「古池や蛙飛び込む水のをと」について、
高弟の其角が上五に「山吹」をもちいたらど
うかといったという話が伝わっている。芭蕉
は弟子の進言をとらず、「古池」にこだわっ
たという。
 古今集の昔から、蛙は鳴くものというのが
本意ということになっているが、芭蕉は飛び
込むものとしてしまった。それはいわば俳諧
の掟破りであり、本意に照らしてみると、歌
語としての「山吹」は水の側に咲くものとい
うことで鳴く「蛙」と常に結びつけて詠まれ
てきたというのが其角の進言の根拠である。
 古池か山吹か。虚子はあえて其角の山吹
説をとり、蛙が啼くときの「喉のふくれ」に
着目して、「どや、芭蕉翁!」と挑戦した。


蛙7
   2017/5/22 (月) 07:56 by Sakana No.20170522075645

05月22日

・水がめに蛙うくなり五月雨  正岡子規

 この蛙は鳴かない。水の中に飛び込む音もた
てない。じっとして水かめにういている。降
り続ける五月雨ーーただそれだけを詠んだ俳
句であるが、古池が水がめに変わっただけで、
これも幽玄の體に眼を開いた句ということに
なるのかもしれない。R.H.ブライスの英訳を
ながめ、幽玄(mysterious profundity)につ
いて考える。すると、神秘的に深遠な古池や
水がめから蛙の歌が聞こえてくるよ。
  a frog floating    (the old pond;
  in the water jar -  a frog jumps in,−
  rain of summer      the sound of the water.)
  クヮ クヮ クヮ クヮ (ケロケロケロケロ
  ケケケケ ケケケケ      ゲゲゲゲゲゲゲゲ
  クヮクヮクヮ            ゲロゲロゲロゲロ)


蛙6
   2017/5/19 (金) 07:30 by Sakana No.20170519073023

5月19日

・やせ蛙まけるな一茶これにあり 小林一茶

  やせ蛙が手をついている姿は相撲の仕切り
をする力士のようだ。大相撲で痩せこけて弱
そうな力士が登場すると、一茶のように応援
したくなる。まぐれで勝ったりしたら大歓声。
 しかし、現実は甘くない。やせ蛙は黒星が
増えて、番付をさげ、やがて引退に追い込ま
れる。もともと相撲という競技に向いていな
かったのだ。
 そんなやせ蛙に声援を送る一茶も似たよう
な境遇だったが、俳諧の世界で名を残した。
   芭蕉(1644-1694)  風雅の詩人
   蕪村(1716-1784)  郷愁の詩人
   一茶(1763-1828)   狂句の詩人
 蛙の読みは、芭蕉「かわず」、一茶「か
える」だと思うが、蕪村はどちらだろう。


蛙5
   2017/5/16 (火) 05:49 by Sakana No.20170516054946

05月16日

・閣に座して遠き蛙を聞く夜かな 与謝蕪村

  老眼のせいで、上五を「闇に座して」と
間違って読み、遠い昔のことを思い出した。
 子供の頃、いたずらをして、倉に閉じ込
められたことがある。倉の中は真っ暗闇だ
った。座していると、遠蛙の声が聞こえて
きた。なつかしい声だ。
 やはり蕪村の句に「遅き日のつもりて遠
き昔かな」があり、二句のイメージが重な
ってくる。
 しかし、原句の上五は「閣に座して」だ。
「闇に座して」ではない。それでも悪くな
いが、「閣」だと、私には金閣寺やら銀閣
寺やら通天閣のイメージが邪魔になる。思
いきって斧正(ふせい)したいが、まさか
私が蕪村の句を正すわけにはいかない。


蛙4
   2017/5/13 (土) 05:42 by Sakana No.20170513054242

05月13日

・歌軍文武二道の蛙かな   安原貞室

 歌軍は「うたいくさ」と読む。作者の安原
貞室(1610-1673)は、江戸時代前期の俳人で、
芭蕉の先輩にあたる。
 当時の武士が文武二道をもとめられたよう
に蛙も蛙合戦と歌合戦で文武二道にはげんで
いるというような意味らしい。
  歌合戦は『古今集』序文の「水にすむ蛙の
声」から推測できるが、蛙合戦とはどういう
意味か? 解説書によれば、多数の蛙が群れ
集まって、争うように交尾することだという。
 ついでに思いついて、井上ひさしの戯曲
『表裏源内蛙合戦』を読んでみた。江戸時代
の文武両道の達人平賀源内を描いた作品だ。
表の源内と裏の源内との合戦というか会話は
面白いが、蛙合戦の意味解読の参考にはなら
ない。蛙が一匹も登場しないからだ。


蛙3
   2017/5/10 (水) 07:09 by Sakana No.20170510070936

05月10日

・だんびりと池に蛙の飛び入りて 竹馬狂吟集

 「長者のむすめ仏にぞなる」に付けた狂句。
山崎宗鑑作と伝えられる「手をついて歌申ぐ
る蛙哉」とともに芭蕉の古池句につながった。
 「だんびり」は「どんぶり」の類似音で用
いた壇毘利長者のことで、だんびりと蓮の池
に飛び込めば、長者の娘だけでなく蛙でさえ
極楽往生するだろうというほどの意味らしい。
 当時の説法説話に、「だんびり長者」なる
ものがあり、前世に三人の聖人に施しをした
ため、国王に過ぎた楽を得たと伝えられる。
 十六世紀の庶民は、この狂句で笑ったかもし
れないが、二十一世紀の庶民は手引書を読ん
で勉強しないと笑えない。狂句を理解するに
も教養がもとめられる。困ったものだ。


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則天去私の文学論 『日本篇:俳諧狂句』 長谷部さかな 著
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