則天去私の文学論 『日本篇:俳諧狂句』

長谷部さかな 著

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一日と一年
   2017/7/27 (木) 07:26 by Sakana No.20170727072647

07月27日

・一日は長し一年すぐにたち     渓々

 一日は二十四時間、一年は三百六十五日。
したがって、「一年は長し、一日すぐにた
ち」というのが常識的物理的な時間感覚だ
が、心理的な時間感覚では、「一日は長し、
一年すぐにたち」である。
 この句は、林富士馬『川柳のたのしみ』
に載っているが、作者の渓々の経歴がよく
わからない。「近代文学と違って私は川柳
の特徴を無名性としてきた」と林富士馬は
いう。そういえば、『柳多留』の名句の多
くは作者の名前がわからない。それに比べ
れば、渓々は名前が伝わっているだけでも
ましなほうかもしれない。
 ヒポクラテス曰く、芸術は長く、人生は
短し。(Ars longa, vita brevis.)


大根の葉
   2017/7/24 (月) 07:47 by Sakana No.20170724074713

07月24日


・流れゆく大根の葉の早さかな    虚子

 最上川でもないし、保津川の急流でもない。
九品仏の浄真寺で句会を行ったあと、寺から
多摩川の方向に散策に出かけ、九品仏川を流
れてゆく大根の葉の早さに目をつけて詠んだ
と伝えられている。無常迅速の世の中を流れ
る作者の心が大根の葉に投影されているのか
もしれない。
 しかし、大根の葉に身をたくさなくても、
人生は無常迅速である。一寸の光陰軽んじる
べからず。思い立ったが吉日。時は金なり。
善は急げ。
 とはいうもの、急がば回れ、ともいう。短気
は損気。急いては事を仕損じる。果報は寝て
待て。慌てる乞食はもらいが少ない、待てば
海路の日和あり。


ほととぎす(2)
   2017/7/21 (金) 07:14 by Sakana No.20170721071448

07月21日

・光陰の一幕過ぎてほととぎす 机鳥評宝十三812・拾一15

 宝暦十三年(1763)の作。「光陰の一幕」
とは、千代女が「ほととぎすほととぎすとて
明けにけり」の句を得た一夜のことを指して
いると思うが、千代女がその句を詠んだ享保
二年(1717)からみると、46年の光陰が過ぎ
ている。
 机鳥は柄井川柳と同様、前句付の点者の一
人であり、作者ではない。前句は「つきぬ事
かなつきぬ事かな」。
 理屈をいえば、光陰の一幕が過ぎたという
ことは一件落着であり、「つきた」ことであ
るから、「つきぬ事かな」ではない。
  また、千代女の没年は安永4年(1774)だか
ら、光陰の一幕過ぎてから77年後、机鳥評か
ら11年後という計算になる。


ほととぎす
   2017/7/18 (火) 04:54 by Sakana No.20170718045441

07月18日

・ほととぎすほととぎすとて明けにけり 千代女 

 千代女は、元禄十六年(1703)に加賀国松任
町(現在の石川県白山市)に生まれた。享保
二年(1717)の夏頃、美濃派各務支考の門人
仙石盧元坊という俳人がひよっこり松任にあ
らわれた。当時十四歳の千代女が盧元坊の宿
を訪れ、弟子入りを志願したところ、「ほと
とぎす」という夏の季題の句をつくって見せ
るようにと言われた。
 夜になり、盧元坊は寝てしまったが、千代
女は一睡もせず、句作りに熱中し、白山連峰
が白みはじめる頃、一句ひらめいた。その句
をみて、盧元坊は喜んで千代女を弟子にする
ことにした。支考に次いで美濃派の指導者に
なった盧元坊は、美濃派に天下の女俳諧師あ
りと千代女を大いに吹聴したという。


春おしむ
   2017/7/15 (土) 06:55 by Sakana No.20170715065510

07月15日

・白髪同士春を惜しむもばからしや    一茶

 今は次の瞬間には今ではない。過去になっ
てしまう。時よとまれと言っても、止まって
はくれない。「月日は百代の過客にして、行
きかふ年も又旅人也。舟の上に生涯をうかべ
馬の口をとらえて老をむかふる者は、日々旅
にして、旅を栖とす」と、奥の細道の旅に出
かけた芭蕉は「行春や鳥啼魚の目は涙」から
「蛤のふたみにわかれ行く秋ぞ」までの時を
詠み込んだ。それ以前にも、「行く春を近江
の人とおしみける」と詠んでもいる。
 ところが、一茶は、白髪の老人たちが集ま
って「白髪同士春を惜しむもばからしや」と
いう。芭蕉翁の風雅を皮肉っているのか、そ
れとも老残の境遇にあるわが身を自嘲してい
るのか。


春の海
   2017/7/12 (水) 07:50 by Sakana No.20170712075022

07月12日

・春の海ひねもすのたりのたりかな  蕪村

  芭蕉の時間は早く、蕪村の時間は遅く流れ
 る。その理由の一つは芭蕉が旅人だったのに
 たいして、蕪村がひきこもりがちの定住民だ
 ったからではなかろうか。「のたりのたり」
という擬音が定住民の時間の感覚を表現する
 のに絶妙の効果をあげていると思う。
  この句は、丹後与謝の海を詠んだといわれ
 ている。京都には海がないと思っていたが、
 丹後与謝の海は京都の内だ。やはり定住民タ
イプの私は見たことがないが、日本三景の一
つ、天橋立のあたりの海らしい。
  もしかしたら、「思ふことなくてや見まし
 よさの海の天の橋立都なりせば」という赤染
 衛門(千載集)の古歌をふまえているのかも
 しれない。



五月雨
   2017/7/9 (日) 04:55 by Sakana No.20170709045556

07月09日

・五月雨をあつめて早し最上川   芭蕉、

 最上川は、みちのくより出て、山形を水上
とす。その川の流れが五月雨をあつめて早い
というのである。この世はまさに最上川の如
し。ドナルド・キーンの英訳を拝借して、英
語で表現された無常迅速を味わってみよう。
       Gathering seawards
    The summer rains, how swift it is!
          Mogami River.
 夏の雨を集めて、海へ向かい、なんと早く
流れることよ、最上川。
 ごてん・はやぶさなど云おそろしき難所有。
板敷山の北を流て、果は酒田の海に入。・・
・・・・左右山覆ひ、茂みの中に船を下す。
白糸の滝は青葉の隙々に落て、仙人堂、岸に
臨て立。水みなぎって舟あやうし。


ときは今
   2017/7/6 (木) 08:57 by Sakana No.20170706085753

07月06日

・ときは今天が下しる五月哉  光秀

  敵は本能寺にありと、本能寺に泊まってい
た織田信長を急襲して主殺しを果たした明智
光秀がその9日前に連歌師・里村紹巴を招い
て京都・愛宕神社で光秀が設けた連歌(愛宕
百韻といわれる)の発句である。
 愛宕百韻を巻き終えたのは、天正10年
(1582)5月24日 辰の刻 午前八時だが、
光秀は戦国大名土岐氏の一族だったので、織
田氏に代わって土岐氏が天下を治める時がい
たという意味がこめられていたともいわれる。
後者の意味の場合は、謀反の決意表明ともと
れるので、連歌師紹巴も謀反への関与を疑わ
れた。光秀の発句には威徳院行祐の「水上ま
さる庭の夏山」が続き、第三に紹巴が「花落
つる池の流をせきとめて」と詠んでいる。



   2017/7/3 (月) 07:37 by Sakana No.20170703073744

07月03日

・松も時なり竹も時なり  道元

 『正法眼蔵』第二十 有時に、「松も時な
り、竹も時なり。時は飛去するとのみ解會す
べからず」という句がある。道元は俳諧狂句
を詠んだつもりはなかっただろうが、形式は
七七、内容は感覚F(時間)篇にふさわしい
ので、借用した。許されよ、道元禅師。
 松も植物、竹も植物にはちがいないが、物
質に時があるように、動物にも植物にも時が
ある。その時は飛去(ひえ)するとのみ解會
(げえ)するべからずーー飛び去るものとの
み理解してはいけない。光陰矢の如し、過ぎ
去ったものは取り返しがつかないと、と嘆い
てばかりは愚の極み。一切世界のすべてが自
己のうちにあり、一切世界の事事物物が、み
な時であることを自覚せよ。


『俳諧狂句』第二類 古句 
   2017/6/30 (金) 07:40 by Sakana No.20170630074050

『俳諧狂句』第二類 古句 2017年6月 

 盗人を捕らえて見れば我が子なり 新撰犬筑波集
 佐保姫の春立ちながら尿をして  山崎宗鑑
 蚤虱馬が尿する枕もと      松尾芭蕉
 花よりも團子やありて帰る雁   松永貞徳
 白露や無分別なる置き所     西山宗因
 真じ目に成るが人の衰へ     武玉川 三篇
 本降りに成て出て行雨やどり   柳多留 初篇
 子が出来て川の字形に寝る夫婦  柳多留 初篇
 役人の骨っぽいのは猪牙に乗せ  柳多留 二篇
 朝顔につるべ取られてもらひ水  加賀千代女

  江戸時代ないしそれ以前の古俳諧、古川柳
から適当に十句収集して第二類古句篇とした。
 盗人、尿などを詠んだ句でも真面目に選んで
並べれば、白露にも劣らない無分別なる置き
所と思いたいが、やはり分別も少し働く。


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則天去私の文学論 『日本篇:俳諧狂句』 長谷部さかな 著
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