則天去私の文学論 『英国篇:薔薇戦争』

長谷部さかな 著

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必然(neccesity)
   2017/5/4 (木) 06:58 by Sakana No.20170504065822

05月02日 

"Gaunt. There is no virtue like neccesity."
                ---Act I, sciii, II.
ゴーント 窮境ほどありがたいものはない。
       ーー『リチャード二世』第一幕第三場
                      (『文学論』上p132)

「最初から剛速球の難解句です。"There is no 
virtue like neccesity."を日本語に翻訳して
ください」
「必然にまさる徳なし」
「どういう意味ですか?」
「文字通りの意味だよ」
「窮境ほどありがたいものはない(夏目漱石
訳)、あるいは、窮境ほど結構なものはない
(坪内逍遙訳)、あるいは、窮境におちいっ
たときは、その窮境をして艱難汝を玉にす、
との教えを言わしむるがいい(小田島雄志訳)
―ーこのようにくだけた訳にしないと日本人の
読者には通じませんよ」
「英和辞典では、"necessity"の意味は必然と
なっている。沙翁の歴史劇の『リチャード二
世』から『リチャード三世』までをよく読む
と、やはりその訳で必然だと納得できる」
「そうでしょうか?」
「ここはリチャード二世から国外追放処分を
受けたランカスター家の嫡子ボリングブルッ
クを父親のランカスター公ジョン・オヴ・ゴ
ーントがなぐさめ、時節を待てと、臥薪嘗胆
を説いている場面だ。いずれ、リチャード二
世が、ボリングブルック(後のヘンリー四世)
に王位を明け渡し、さらにはヨーク家(白薔
薇)とランカスター家(赤薔薇)との骨肉相
食む薔薇戦争に発展する必然を予言している」
「リチャード二世にとってはそんな必然が徳
とは認められないでしょうね」
「必然がわからぬ者は没落する運命にある。
滅びの美も理解できない」
「滅びの美なら日本人でもわかりますが、必
然は日本人にはわかりにくい概念ですね」
「必然がわかれば則天去私もわかる。"necessity"
を逆境と訳し、源氏か平氏か、白薔薇か赤薔
薇か、というよう単純な対立軸を立てて、読
者の感情に訴えるだけの文学者ではダメだ」
「その点について、漱石先生はどのようなお
考えだったでしょうか」
「わからんが、無意識のうちに"necessity"を
則天と理解し、それに暗示を受けたという可
能性はないとはいえない」


はじめに 
   2017/5/1 (月) 07:32 by Sakana No.20170501073243

05月01日 

「それでは、幻の論文になってしまった夏目
漱石『則天去私の文学論』の内容がどんなも
のになり得たかについて、想像力をたくまし
くしながら、推理することにしましょう」
「想像力をたくましくするのはいいが、堅苦
しいのは困る」
「今まで通り、肩の力をぬき、気楽にやって
ください」
「もちろん気楽にやらせてもらうよ。資料は
あるのか?」
「資料は、とりあえず、三種類のペーパーを
用意します。『英国篇:薔薇戦争』と『米国
篇:多元的宇宙』、それに『日本篇:俳諧狂
句』の三本立てです」
「なるほど、英米日の三方面作戦か。それに
しても風変わりな趣向だな。則天去私の文学
的内容を推理するなら、漱石の娘婿松岡譲が
伝えているように『高慢と偏見』や『ウェイ
クフィールドの牧師』、あるいは『明暗』を
読むのが近道ではないか」
「その伝聞は私にはピンときません。それよ
りも『文学論』の隠し味、二人のウィリアム
(沙翁の歴史劇とジェームズの哲学)に注目
します。味読すればなにがしかの収穫が期待
できるかもしれません。さらに、断片的文学
の代表として、『日本篇:俳諧狂句』を追加
します」
「沙翁が『文学論』の隠し味だと?」
「『文学論』を三読、四読した結果、薔薇戦
争(1455-1485)とそれ以前の百年戦争(1337
-1453)関連の歴史劇からの引用が特に多いこ
とに気がつきました。薔薇戦争を知らずして
英文学は語れません。沙翁の歴史劇には則天
去私に通じるヒントが転がっているような気
がしています」



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則天去私の文学論 『英国篇:薔薇戦争』 長谷部さかな 著
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