則天去私の文学論 『英国篇:薔薇戦争』

長谷部さかな 著

 ID


全42件 <更新> ページ移動 ⇒ [ 1 2 5 終了]

PAGE 3 (21〜30)


テューダー朝(Tudor Dynasty)
   2017/6/28 (水) 06:47 by Sakana No.20170628064717

06月28日

"Richmond. All this divided York and Lancaster,
Divided in their dire division,
O, now, let Richmond and Elizabeth,
The true succeeders of each royal house,
By God's fair ordinance conjoin together!"
リッチモンド 無残にも分裂をかさね、長いあいだ
引き裂かれていたヨーク、ランカスター両家を、
おお、いま、それぞれの王家の真の継承者
リッチモンド、エリザベス両名の手によって、
一つに結び合わせることこそ神の思(おぼ)し召しだろう!
   (『リチャード三世』第五幕第五場)

「ランカスター家とヨーク家、赤薔薇と白薔
薇の戦いで最終的に漁夫の利を得たのがテュ
ーダー家です」
「リッチモンドはランカスター家、エリザベ
スはヨーク家の血をひいているから二人の結
婚により赤薔薇と白薔薇の統合がめでたく成
立したといえる」
「リッチモンドはヘンリー・テューダー、後
のヘンリー七世ですが、血縁関係がかなり複
雑で理解するのに私の頭を悩ませてくれまし
た。父のエドマンド・テューダーは遠縁の下
級貴族にすぎなかったのですが、フランス王
女で、ヘンリー五世の未亡人のキャサリン・
オヴ・ヴァロワと結婚したためにヘンリー六
世の異父弟になり、リッチモンド伯に封じら
れました」
「つまり、ヘンリー七世はフランス王女が生
んだ息子か」
「いえ、そうではなくて、生母はランカスタ
ー家傍系ボーフォート家のマーガレット・ボ
ーフォートです」
「では、たいした血筋ではない」
「ところが、実はイングランドの王位継承権
のある血筋だったのです。母マーガレット・
ボーフォートはランカスター公ジョン・オヴ・
ゴーントの曾孫でした。他の有資格者がみん
な死んでしまったため、ヘンリー・テューダ
ーに王位継承権がころがりこんできたのです」
「ヘンリー・チューダーの結婚相手のエリザ
ベスの血筋は?」
「エドワード四世の長女エリザベス・オヴ・
ヨークです。結婚相手として申し分ありませ
ん」
「エリザベスはリチャード三世も王妃の候補
者として狙っていたのではないか?」
「そうですね、1485年8月22日のボズワースの
戦いは、エリザベスを獲得するためのリチャ
ード三世とリッチモンドとの間の争いでもあ
りました」


ヘンリー七世
   2017/6/25 (日) 09:03 by Sakana No.20170625090358

06月25日

King Henry. My lord Somerset, what youth is that 
Of whom you seem to have so tender care ?
Somerset. My lege, it is young Henry, earl of Richmond.
King Henry. Come hither, England’s hope.
 [Lays his hand on his head]  If secret powers
Suggest but truth to my divining thoughts,
This pretty lad will prove our country’s bliss.
王 サマセット卿、その少年はなにものだば、
 ずいぶん大事にして、かわいがっているようだが?
サマセット これは、陛下、リッチモンド伯ヘンリーです。
王 ここへくるがいい、イギリスの希望の星よ
  もしも神秘なる力に教えられた私の予感が正しければ、
 このかわいい少年はわが国のしあわせのもととなるだろう。
  (『ヘンリー六世』第四幕第六場 小田島雄志訳)

「このかわいい少年リッチモンド伯が成長し
て、ボズワースの戦い(1485年)で、リチャ
ード三世の軍勢にたいして勝利し、ヘンリー
七世としてチューダー朝をひらきます」
「ランカスター家の血をつぐヘンリー七世が、
ヨーク家の血をつぐエリザベスと結婚するこ
とによって、両家が統合された。薔薇戦争は
終結し、平和がもどった。このかわいい少年
が、わが国のしあわせのもととなるだろうと
いうヘンリー六世の予感はあたったことにな
る」
「イギリス希望の星、というのが沙翁からテ
ューダー王朝エリザベス一世の治世へのごま
すりメッセージです」
「少年を大事にして、かわいがっているとい
うサマセット公とは何者だ?」
「ランカスター公ジョン・オブ・ゴーントの
血をひく第四代サマセット公エドマンド・ボ
ーフォートです」
「すると、ヨーク家にとっては天敵のような
存在だったボーフォート家の血もヘンリー七
世の後継者ヘンリー八世やエリザベス一世に
流れていることになる」
「チューダー朝の成立は恩讐の彼方にあり、
です」


リチャード三世
   2017/6/22 (木) 07:18 by Sakana No.20170622071833

06月22日

Gloucester. Why I, in this weak piping time of peace,
Have no delight to pass away the time,
Unless to spy my shadow in the sun
And descant on mine own deformity;
And therefore, since I cannot prove a lover,
To entertain these fair well-spoken days,
I am determined to prove a villain
And hate the idle pleasures of these days.
グロスター そういうおれだ、のどかな笛の音に酔いしれる
 この限りない平和の時世に、どんな楽しみがある。
 日向ぼっこをしながら、おのれの影法師相手に
 その無様な姿を即興の歌にして口ずさむしかあるまい。
 おれは色男となって、美辞麗句がもてはやされる
 この世のなかを楽しく泳ぎまわることなどできはせぬ、
 となれば、心を決めたぞ、おれは悪党となって、
 この世の中のむなしい楽しみを憎んでやる。
    (『リチャード三世』第一幕第一場 小田島雄志訳)

「おれは悪党となって、この世の中のむなしい
楽しみを憎んでやる、と開き直ったグロスター
公、のちのリチャード三世は確信犯の悪党です」
「善人のふりをする偽善者の悪党よりは、正直
という点で、ましかもしれない」
「でも兄エドワード四世の息子である二王子の
暗殺を指示した行為は情状酌量の余地はありま
せん」
「邪魔者は殺せ。そうしないかぎり、国王には
なれない」
「しかし、殺された者たちは亡霊になって、ボ
ズワースの戦場で睡眠中のリチャード三世の夢
に登場します」、
「だれの亡霊だ?」
「ヘンリー六世、ヘンリー六世の王子エドワー
ド、ヨーク家の二王子、王妃アン、次兄クラレ
ンス、リヴァーズ伯、グレー、ヴォーン、ヘー
スティングス卿、バッキンガム公ーー彼らの亡
霊がリチャード三世に呪いをかけてくるのです。
絶望して死ね!、と」


エドワード四世
   2017/6/19 (月) 07:46 by Sakana No.20170619074637

06月19日

"And now what rests but that we spend the time
 With stately triumphs, mirthful comic shows,
 Such as befits the pleasures of the court?
 Sound drums and trumpets. Farewell, sore annoy!
 For here, I hope. Begins our lasting joy."
 さあ、この上は宮廷の楽しみにふさわしい
 豪勢な勝利の祝宴、愉快な道化芝居に
 時の移るのを忘れるとしよう。太鼓を鳴らせ、
 ラッパを吹け! つらい艱苦よ、さらばだ!
 これからは、永遠の喜びがはじまるのだ。
   (『ヘンリー六世』 第三部第五幕第七場 小田島雄志訳)

「エドワード四世は赤薔薇ランカスター家のヘ
ンリー六世から王位を奪った白薔薇ヨーク家初
代の国王ですが、このセリフからは享楽主義的
な性格の一面が見てとれます」
「色好みのプレイボーイ国王だ。ランカスター
派だったジョン・グレイ卿の未亡人エリザベス
と結婚している」
「子連れの未亡人です。そのために摂政のウォ
リック伯がまとめようとしていたフランス国王
の妹ボーナ姫との結婚が破談になり、フランス
だけでなく白薔薇軍勝利の大功労者ウォリック
伯も敵にまわしてしまいました」
「イングランドにとっては大きな損失だ。どう
してそんな馬鹿なことをしたのだろう」
「グレイ卿夫人エリザベスの色香に迷ったので
す」


ヘンリー六世
   2017/6/16 (金) 05:41 by Sakana No.20170616054158

06月16日

"King. Was ever king that joy’d an earthy throne,
 And command no more content than I ?
No sooner was I crept out of my cradle
But Iwas made king, at nine months old.
Was never subject long’d to be a king
As I do longand wish to be a subject."
王 この世の王座に身をおいた王のなかで、
 私ほど心満たされぬ思いをしたものがあろうか?
 生まれてわずか九か月、揺り籠から
 這い出るやいなや王位につかされた私だ、
 王になりたいと願ういかなる臣下といえども、
 臣下になりたいと切望する私の気持にはおよぶまい。
 (『ヘンリー六世』第二部第四幕第九場 小田島雄志訳)

「ヘンリー六世は生まれてわずか九か月で王位
についたそうです。生後九か月といえば、私に
はまったく記憶がありません」
「なりたくて国王になったわけではない。もの
ごころがつき、気がついたら国王だった」
「うらやましいような身分ですが、国王以上の
身分はないので、上昇志向の夢や目標を持てな
いのはお気の毒です」
「その点、ヨーク公には国王になりたいという
野心があった。ヘンリー六世はさっさと王位を
ヨーク公に譲り、臣下になればよかったのだ」
「そんなことは周囲が許しません。特に王妃マ
ーガレットが」
「そもそも結婚することがトラブルのもとだ」
「国王が結婚しないわけにはいかないでしょう」
「持参金なしで嫁いだマーガレットのおかげで、
イングランドはフランス領を失ってしまった」
「でも、在位期間をみると、ヘンリー六世は約
40年とずばぬけて長いですね。他の国王は長
くてせいぜい約10年です」
「王の在位期間と人間の寿命は、長ければ長い
ほどいいということにはならない」


ヘンリー五世
   2017/6/13 (火) 07:11 by Sakana No.20170613071117

06月13日

Montjoy. The day is yours.
King Henry. What is this castle call’d that stands hard by ?
Montjoy. They call it Agincourt.
King Henry. Then call we this the field of Agincourt.
 Fought on the day of Crispin Crispianus.
モントジョイ 勝利は陛下のものです。
王 とすれば、そうあらしめたのは神のみ力、私の力ではない。
 すぐそこに見える城はなんと呼ばれている?
モントジョイ アジンコートと呼ばれています。
王 では、今日の戦を、聖クリスピアンの日に戦われた
 アジンコートの戦と名づけることにしよう。
      (『ヘンリー五世』第四幕第七場 小田島雄志訳)

「ヘンリー五世は、ハル王子と呼ばれていた若
い頃は、悪漢道化師フォールスタッフなどと放
埒な遊びにふける不良でした」
「うつけ者と呼ばれた若き日の織田信長に似て
いる」
「ところが、国王になってからは評判がよく、
名君とたたえられました」
「聖クリスピアンの日に戦われたアジンコート
の戦いでは、三倍の軍勢をほこるフランス軍に
勝って、イングランドの国威をたかめた」
「織田信長が十倍の軍勢を率いる今川義元に勝
った桶狭間の戦いを連想します」
「人間五十年 下天の内をくらぶれば、夢幻の如
くなり。一度生を得て滅せぬ者のあるべきか。
信長は臣下の明智光秀の謀反で不意打ちをくら
って戦死したときの齢は五十。それに比べても
ヘンリー五世は早逝だ」
「三十四歳の若さ。死因は赤痢です」
「それも天命というしかない」


ヘンリー四世
   2017/6/10 (土) 05:22 by Sakana No.20170610052226

06月10日

"King. With deafing clamour in the slippery clouds, 
 That with the hurly death itself awakes? 
 Canst thou, O partial sleep, give thy repose 
 To the wet sea-boy in an hour so rude; 
 And in the calmest and most stillest night, 
 With all appliances and means to boot, 
 Deny it to a king? Then, happy low, lie down! 
 Uneasy lies the head that wears a crown." 
王 雲を呑み、死者も目を覚ましそうな轟音を発して
 荒れ狂おうと、おまえはその居丈高な大波を揺り籠とし、
 安らかなこころよい眠りへと誘ってやるではないか?
 そのおまえが、ああ、依怙贔屓する眠りよ、嵐の夜
 船乗りの少年に安眠を恵むおまえが、どうして
 風のそよぎ一つせぬ静かな静かな夜、しかも
 おまえを迎えるためのあらゆる手立てを講じた国王には
 安眠を拒むのだ? しあわせな賎民よ、眠るがいい!
 王冠をいただく頭には安らぎが訪れることはない。
   (『ヘンリー四世』第三幕第一場 小田島雄志訳) 

「ヘンリー四世は、夏目漱石『文学評論』に
有名なセリフが紹介されています」
「王冠をいただく頭には安らぎが訪れること
はないーー睡眠障害の症状だ」
「マクベスがやはり安眠できないと訴えてい
ました」
「ヘンリー四世やマクベスだけではない。睡
眠に関しては、国王よりもきみのような賎民
のほうが恵まれている」
「『文学評論』では、沙翁の文体とダニエル・
デフォー(『ロビンソン・クルーソー漂流記』
の作者)の文体が比較されています。

a. Uneasy lies the head that wears a crown.
 冠を戴く頭は安きひまなし。
b, Kings have frequently lamented the miserable 
consequences of being born to great things, and 
wished they had been placed in  the middle of 
the two extremes, between the mean and the great.
  高貴の身に生まれたる不幸を悲しんで、両極の中、
 上下の間に世を送りたく思うは帝王の習いなり。
                 (夏目漱石『文学評論』第六編)

「<双方とも内容は似たものである、けれども
一方は詩で一方は散文になっている」
「沙翁の歴史劇は詩の文体で書かれているのか?」
「一方は凝ったいい回しかたで、一方は尋常な
話し具合である。一方は人を留まらせる。一方
は考えさせる。一方は一字ごとにはきはき片付
いてゆく。なぜこういう相違が出るのだろうか?」
「『草枕』を読めば、漱石が詩的な文体を好ん
だことがよくわかります。一方、デフォーの小
説を読んでみると、どれもこれも皆長い感じが
すると、散文的な文体を嫌っていました」
「『ロビンソン・クルーソー漂流記』について
車夫が車を引くような具合に書いてあると酷評
している」


リチャード二世(Richard II)
   2017/6/7 (水) 07:16 by Sakana No.20170607071602

06月07日

"King. For well we know no hand of blood and bone
 Can grip the sacred handle of our scepter,
 Unless he do profane, steal or usurp."
 おれにはよくわかっておるのだ、いかなる人間も
 この神聖な王笏に手をかけることはできぬし、
 あえて手をかければ、冒涜、窃盗、簒奪となることは。
(『リチャード二世』第三幕第三場、小田島雄志訳)

「薔薇戦争は王位継承をめぐる王族、貴族た
ちの醜い権力争いだね」
「王は神聖な王笏を持っており、それを力づ
くで奪う者は簒奪者だとリチャード二世は言
明しています」
「いわゆる王権神授説だ」
「王権は神から付与されたもので、王は神に
対してのみ責任を負い、国王のなすことに対
しては人民はなんら反抗できないとする思想
ですね。リチャード二世はまさにそのような
思想の持主でした」
「国王にとっては都合のいい思想だが、問題
は臣下が素直に服従するかどうかだ」
「ボリングブルックは反抗して、神聖な王笏
を奪いました」
「君(きみ)君たらざれば、臣(しん)臣たら
ず。国王に反抗するにはそれなりの理由があ
ったのだろう」
「日本でも下克上の盛んだった戦国時代には
そのような気風がありましたが、江戸時代に
なると、君君たらずといえども、臣臣たらざ
るべからずと、おとなしくなりました」
「リチャード二世の場合は、臣下のボリング
ブルックが臣下として無条件の忠節を守らな
かった。それが王の不徳の致すところだった
からか、それとも臣下の反逆に正当な理由が
あったのか、それとも正当な理由があっても
服従すべきだったかをしっかり見きわめる必
要がある」
「見きわめて今さらどうするのですか?」
「必然(necessity)について考えるのだ」


エドワード三世
   2017/6/4 (日) 06:39 by Sakana No.20170604063906

06月04日

"King Edward. And now go forwards with our pedigree:
 Who next succeeded Phillip le Bew?
Artois. Three sons of his, which all successfully
 Did sit upon their father’s regal Throne,
 Yet died, and left no issue of their loins.
King Edward. But was my mother sister unto those?
Artois. She was, my Lord; and only Isabel
 Was all the daughters that this Phillip had,
 Whom afterward your father took to wife;
 And from the fragrant garden of her womb
 Your gracious self, the flower of Europe’s hope,
 Derived is inheritor to France."
王 それでは、わが家系図の説明をはじめてくれ。
 フランス王フィリップ四世の跡を継いだのは誰だ?
アルトワ 三人の王子様です。順に
 父君の王座にお座りになりましたが、いずれも
 お子を残さずにお亡くなりになりました。
王 その三人がわが母上の兄弟だったわけか。
アルトワ さようです、陛下、イザベル様こそ、
 フィリップ王の一人娘
 のちに陛下の父君が奥方とされたお方です。
 そして、そのお腹を香りたかい花壇として、
 ヨーロッパの希望の花である他ならぬ陛下が
 フランス王位継承者としてお生まれになりました。
             (『エドワード三世』第一幕第一場 河合祥一郎訳)

「そもそも百年戦争は、フランスの王位継承
をめぐる英仏間の戦いです」
「そのきっかけは?」
「1337年のエドワード三世からフランス国王
フィリップ六世への挑戦状送付です」
「エドワード三世がフランスの王位継承をも
とめたというが、イングランドの王位だけで
は満足できなかったのか?」
「母親のイザベラがフランス国王ルイ十世の
姉なので王位継承権があったのです」
「イザベラというと、スペイン人のようだが」
「ルイ十世の後は、フィリップ五世、続いて
シャルル四世がフランス国王になりましたが、
次々と崩御して、カペー王朝は断絶し、従弟
のヴァロア家フィリップが、王位を継ぎフィ
リップ六世を名乗ってひらいたヴァロワ朝に
プランタジネット家のエドワード三世が挑戦
したのです」
「従兄弟は四親等だが、甥は三親等。甥のほ
うが血が濃いという理屈だ。すると、エドワ
ード三世はイングランドの国王といっても血
統的にはフランス人だな」
「1066年のノルマン・コンクェストによって
征服されて以来イングランドはノルマン人に
支配されています。ノルマン朝に続くプラン
タジネット朝は、フランスの貴族アンジュー
伯アンリが1154年にイングランド王ヘンリー
二世となり、ひらいた王朝です」
「エドワードとはエドゥアールかい?」
「ヘンリーとはおれのことかとアンリいい」


歴史劇(history plays)
   2017/6/1 (木) 06:57 by Sakana No.20170601065725

06月01日

   Edward III     エドワード三世
   Richard II     リチャード二世
  1 Henry IV   ヘンリー四世第一部
  2 Henry IV   ヘンリー四世第二部
  Henry V    ヘンリー五世
  1 Henry VI   ヘンリー六世第一部
  2 Henry VI   ヘンリー六世第二部
  3 Henry VI   ヘンリー六世第三部
  Richard III  リチャード三世
  
「歴代の国王の名前と性格位は知っておいた
ほうがよいと思います。そこで、沙翁歴史劇
のうち『エドワード三世』から『リチャード
三世』までを古いほうから年代順にならべて
みました」
「『エドワード三世』は、つい最近まで沙翁
の作品としてはみとめられていなかった。漱
石は読んでいないだろうし、もちろん『文学
論』への引用もない。坪内逍遙訳も小田島雄
志訳もないはずだ」
「河合祥一郎訳があります。薔薇戦争の原因
を知ろうとすれば、それに先行する百年戦争
の発端となった『エドワード三世』の時代に
さかのぼる必要があります」
「薔薇戦争はヨーク公リチャードがヘンリー
六世に対して起こしたセント・オールバンズ
の戦い(1455年)からヨーク家のリチャード
三世が戦死してヘンリー七世のチューダー朝
が成立したボズワースの戦(1485年)までと
されている。上記の表でいえば、ヘンリー六
世第三部からリチャード三世までのたかだか
二冊分の三十年間にすぎない」
「読者はそれ以前の百年戦争からの因縁を頭
に入れておいたほうがよいと思います」
「イングランドの国王としては、ヘンリー六
世とリチャード三世との間にエドワード四世と
エドワード五世がいるが、その名を冠した沙
翁の歴史劇はない」
「エドワード四世は、ヨーク家がランカスタ
ー家から王位を奪って天下をとった国王です。
『ヘンリー六世』第三部は『エドワード四世』
と名づけてもよかったと思います」
「余計なお世話だ。著作権は沙翁にある」
「エドワード五世は十二歳の若さで即位して
います」
「即位の三ヶ月後にはロンドン塔で弟のヨー
ク公とともに死んでしまった。リチャード三
世の指示で暗殺されたといわれている」
「その話は漱石の『倫敦塔』でも描写されて
います・・・弟また「アーメン」と云う。そ
の声は顫えている。兄は静かに書をふせて、
かの小さき窓の方かたへ歩みよりて外(との)
面を見ようとする。窓が高くて背が足りぬ。
床几を持って来てその上につまだつ。百里を
つつむ黒霧の奥にぼんやりと冬の日が写る。
屠れる犬の生血にて染め抜いたようである。
兄は「今日もまたこうして暮れるのか」と弟
を顧りみる。弟はただ「寒い」と答える。
「命さえ助けてくるるなら伯父様に王の位を
進ぜるものを」と兄が独ひとり言のようにつ
ぶやく。弟は「母様に逢いたい」とのみ云う」



ページ移動 ⇒ [ 1 2 5 終了] <照会>
 
則天去私の文学論 『英国篇:薔薇戦争』 長谷部さかな 著
 Copyright (C) Sakana Hasebe 2017