則天去私の文学論 『英国篇:薔薇戦争』

長谷部さかな 著

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ヘンリー七世
   2017/6/25 (日) 09:03 by Sakana No.20170625090358

06月25日

King Henry. My lord Somerset, what youth is that 
Of whom you seem to have so tender care ?
Somerset. My lege, it is young Henry, earl of Richmond.
King Henry. Come hither, England’s hope.
 [Lays his hand on his head]  If secret powers
Suggest but truth to my divining thoughts,
This pretty lad will prove our country’s bliss.
王 サマセット卿、その少年はなにものだば、
 ずいぶん大事にして、かわいがっているようだが?
サマセット これは、陛下、リッチモンド伯ヘンリーです。
王 ここへくるがいい、イギリスの希望の星よ
  もしも神秘なる力に教えられた私の予感が正しければ、
 このかわいい少年はわが国のしあわせのもととなるだろう。
  (『ヘンリー六世』第四幕第六場 小田島雄志訳)

「このかわいい少年リッチモンド伯が成長し
て、ボズワースの戦い(1485年)で、リチャ
ード三世の軍勢にたいして勝利し、ヘンリー
七世としてチューダー朝をひらきます」
「ランカスター家の血をつぐヘンリー七世が、
ヨーク家の血をつぐエリザベスと結婚するこ
とによって、両家が統合された。薔薇戦争は
終結し、平和がもどった。このかわいい少年
が、わが国のしあわせのもととなるだろうと
いうヘンリー六世の予感はあたったことにな
る」
「イギリス希望の星、というのが沙翁からテ
ューダー王朝エリザベス一世の治世へのごま
すりメッセージです」
「少年を大事にして、かわいがっているとい
うサマセット公とは何者だ?」
「ランカスター公ジョン・オブ・ゴーントの
血をひく第四代サマセット公エドマンド・ボ
ーフォートです」
「すると、ヨーク家にとっては天敵のような
存在だったボーフォート家の血もヘンリー七
世の後継者ヘンリー八世やエリザベス一世に
流れていることになる」
「チューダー朝の成立は恩讐の彼方にあり、
です」


テューダー朝(Tudor Dynasty)
   2017/6/28 (水) 06:47 by Sakana No.20170628064717

06月28日

"Richmond. All this divided York and Lancaster,
Divided in their dire division,
O, now, let Richmond and Elizabeth,
The true succeeders of each royal house,
By God's fair ordinance conjoin together!"
リッチモンド 無残にも分裂をかさね、長いあいだ
引き裂かれていたヨーク、ランカスター両家を、
おお、いま、それぞれの王家の真の継承者
リッチモンド、エリザベス両名の手によって、
一つに結び合わせることこそ神の思(おぼ)し召しだろう!
   (『リチャード三世』第五幕第五場)

「ランカスター家とヨーク家、赤薔薇と白薔
薇の戦いで最終的に漁夫の利を得たのがテュ
ーダー家です」
「リッチモンドはランカスター家、エリザベ
スはヨーク家の血をひいているから二人の結
婚により赤薔薇と白薔薇の統合がめでたく成
立したといえる」
「リッチモンドはヘンリー・テューダー、後
のヘンリー七世ですが、血縁関係がかなり複
雑で理解するのに私の頭を悩ませてくれまし
た。父のエドマンド・テューダーは遠縁の下
級貴族にすぎなかったのですが、フランス王
女で、ヘンリー五世の未亡人のキャサリン・
オヴ・ヴァロワと結婚したためにヘンリー六
世の異父弟になり、リッチモンド伯に封じら
れました」
「つまり、ヘンリー七世はフランス王女が生
んだ息子か」
「いえ、そうではなくて、生母はランカスタ
ー家傍系ボーフォート家のマーガレット・ボ
ーフォートです」
「では、たいした血筋ではない」
「ところが、実はイングランドの王位継承権
のある血筋だったのです。母マーガレット・
ボーフォートはランカスター公ジョン・オヴ・
ゴーントの曾孫でした。他の有資格者がみん
な死んでしまったため、ヘンリー・テューダ
ーに王位継承権がころがりこんできたのです」
「ヘンリー・チューダーの結婚相手のエリザ
ベスの血筋は?」
「エドワード四世の長女エリザベス・オヴ・
ヨークです。結婚相手として申し分ありませ
ん」
「エリザベスはリチャード三世も王妃の候補
者として狙っていたのではないか?」
「そうですね、1485年8月22日のボズワースの
戦いは、エリザベスを獲得するためのリチャ
ード三世とリッチモンドとの間の争いでもあ
りました」


『薔薇戦争』まとめ 2017年6月
   2017/6/29 (木) 07:57 by Sakana No.20170629075751

2017年6月

・歴史劇(history plays)
・エドワード三世(Edward III)
・リチャード二世(Richard II)
・ヘンリー四世 (Henry IV)
・ヘンリー五世(Henry V) 
・ヘンリー六世(Henry VI)
・エドワード四世(Edward IV)
・リチャード三世(Richard III)
・ヘンリー七世(Henry VII)
・チューダー朝(Tudor dynasty)

「沙翁歴史劇のうちこの読書会でとりあげる
戯曲は『エドワード三世』から『ヘンリー七
世』までの八篇です」
「八篇に限定し、『ジョン王』や『ヘンリー
八世』を除外したわけは?」
「歴史的には百年戦争と薔薇戦争の時代、地
理的には主としてイングランドを舞台にした
歴史劇としました」
「フランスの戦場や宮廷の描写もある」
「フランスは百年戦争の交戦相手国です。い
ずれにしても、どこかで線引きをしなければ
なりません」
「エドワード三世からヘンリー七世まで八人
の国王の名前をならべているが」
「せめて国王の名前だけは覚えてください。
引用したセリフから性格もある程度はわかる
と思います」


必然(4)
   2017/7/1 (土) 07:27 by Sakana No.20170701072756

07月01日

"Gaunt. All places that the eye of heaven visits 
 Are to a wise man ports and happy havens. 
 Teach thy necessity to reason thus; 
 There is no virtue like necessity. 
 Think not the king did banish thee, 
 But thou the king. Woe doth the heavier sit, 
 Where it perceives it is but faintly borne." 
ゴーント 天日の輝くところ、賢者にとってはすべて
 よき港であり、しあわせな安息所であるのだ。
 窮境におちいったときは、その窮境をして
 艱難汝を玉にす、との教えを言わしむるがいい。
 王がおまえを追放したとは思うな、おまえのほうから
 王を追放したのだと思え。不幸というものは、
 耐える力が弱いと見ると、そこに重くのしかかる。 
    (『リチャード二世』第一幕第三場 小田島雄志訳)

「必然にまさる徳なし("There is no viture like necessity."
というランカスター公ジョン・オヴ・ゴーント
のセリフの意味をもう一度、考えていみたいと
思います。今回はゴーントの発言の背景がよく
わかるように、前後の文章も書き添えました」
「坪内逍遙も夏目漱石も"necessity"を<窮境>
と訳したが、小田島雄志は"Teach thy necessity 
to reason this"(その窮境をして艱難汝を玉に
す、との教えを言わしむるがいい)と、擬人法
で<窮境>に発言させている。原文は"thy necessity"
(<汝の窮境>あるいは<汝の必然>だ」
「<汝の窮境>あるいは<汝の必然>に、<艱
難汝を玉にす>、との教えを言わしむるがいい、
というのはかなり思い切った意訳ですね」
「<艱難汝を玉にす>ということわざに相当す
る英語表現には、"Adversity(またはHardship)
makes a man wise."や"Adversity is the best 
school."があるが、"Necessity makes a man wise."
とか"Necessity is the best school."とは言わ
ない」
「"Necessity is the mother of invention."
(必要は発明の母)という言い方はあります」
「その表現は沙翁ではなく、酢翁スゥイフトの
『ガリバー旅行記』が初出だ」


必然(5)
   2017/7/4 (火) 07:22 by Sakana No.20170704072238

7月04日

"King. Join not with grief, fair woman, do not so, 
 To make my end too sudden: learn, good soul, 
 To think our former state a happy dream; 
 From which awaked, the truth of what we are 
 Shows us but this: I am sworn brother, sweet, 
 To grim Necessity, and he and I 
 Will keep a league till death. Hie thee to France 
 And cloister thee in some religious house: 
 Our holy lives must win a new world's crown, 
 Which our profane hours here have stricken down."
王 泣くな、美しい妻、悲しみと手をとりあって
 おれの最期を早めないでくれ。われわれの過去の栄華は
 一場のしあわせな夢であった、と思ってくれ。
 夢さめて、現実のおのれに気がついてみたら、
 実はこういう姿であったのだ、つまりおれはな、
 見るも恐ろしい「貧苦」と義兄弟であり、死ぬまで
 連れ立って行かねばならぬのだ。おまえはいそいで
 フランスへ帰り、どこかの尼寺にでもこもるがいい。
 これまで冒涜の時をすごして現世の王冠を失ったとすれば、
 これからは信仰の日々をすごして天国の王冠をかち得ねば。
  (『リチャード二世』第五幕第一場 小田島雄志訳)
 
「国王リチャード二世が王妃につらい別れの言
葉を告げる場面で、おれは"grim Necessity"
(「貧苦」と義兄弟だと言っています」
「小田島雄志訳によれば、「貧苦」だが、坪内
逍遙訳はどうなっている?」
「見るも怖ろしい「貧苦」、です」
「つまり、彼等翻訳者は"Necessity"を「逆境」
または「貧苦」と解している」
「そうですね」
「とすれば、国王の座を追われたリチャード二
世は「貧苦」を通じてきみとも義兄弟になった
ことになる」
「それはちよっと違います。私の場合は「清貧」
というべきであり、一緒にして貰いたくはあり
ません」
「清貧は英語でどう表現するのか?」
「"honourable poverty"です」
「なるほど、するとリチャード二世の場合は、
"dishonourable poverty"か」
「ええ、私のように自主的に"grim Necessity"
を選択して生きる場合は「清貧」になりますが、
それまでは栄耀栄華に恵まれた王座から追われ
て、渋々と落魄の身をかこつという場合は、
「貧苦」になります」


必然(6)
   2017/7/7 (金) 08:48 by Sakana No.20170707084833

7月07日

 "Duke of Exceter It follows then the cat must stay at home: 
 Yet that is but a crush'd necessity, 
 Since we have locks to safeguard necessaries, 
 And pretty traps to catch the petty thieves." 
エクセター そうすると猫は家にとどまるべきだということになるが、
 それはいささか強引な結論ではあるまいか。なぜなら、
 大切な品を守るには頑丈な錠というものがあるし、
 けちな盗賊を捕らえるには巧妙な罠があるからだ。
  (『ヘンリー五世』第一幕第二場 小田島雄志訳)

「ヘンリー五世の叔父エクセター公爵が"a crush'd 
necessity"と言っています。直訳すれば、<粉砕され
た必然>ですが、<必然>とは粉砕されるようなやわ
なものでしょうか」
「わからん」
「小田島さんは<強引な結論>と意訳しておら
れます。これならわかるでしょう」
「かなり強引な意訳だな。<結論>というと、
<必然>から離れすぎるのではないか」
「坪内逍遙訳は<強(あなが)ち必要でありま
せん>となっています」
「それもわかりにくい。そもそも何を議論して
いるのだ?」
「猫が家にとどまるべきか、外出するべきかで
す」
「馬鹿馬鹿しい」
「猫とはイングランドのこと、外出というのは
海峡を渡って、フランスに遠征することです」
「それなら、フランスに遠征して、イングラン
ドの国威を発揚するのがヘンリー五世にとって
は必然であり、遠征を中止すれば、<粉砕され
た必然>ということになる」
「それ、わかりやすい日本語になんとかなりま
せんか」
「強引な結論を急ぐな」


必然(7)
   2017/7/10 (月) 05:52 by Sakana No.20170710055229

7月10日

"Richard of Plantagenet. A plague upon that villain Somerset, 
 That thus delays my promised supply 
 Of horsemen, that were levied for this siege! 
 Renowned Talbot doth expect my aid, 
 And I am lowted by a traitor villain 
 And cannot help the noble chevalier: 
 God comfort him in this necessity! 
 If he miscarry, farewell wars in France." 
       1 Henry VI, IV, 3
ヨーク ええい、畜生、あのサマセットの悪党め、
 今度の攻撃のためにやつが集めた騎兵隊を
 送りよこすと約束しながら、まだよこさぬとは!
 名将トールボットはおれの援軍を待っているのに、
 おれはあの裏切り者の悪党に待ちぼうけを食わされ、
 気高い武将を助けに駆けつけることもできぬ始末だ。
 神よ、この危機にあるトールボットを守りたまえ!
 彼が倒れれば、フランスの戦もおしまいだ。
  (『ヘンリー六世』第一部第四幕第三場 小田島雄志訳)

「ヨーク公(三代ヨーク公リチャード)が天敵の
サマセット公をののしる場面で、「"God comfort 
him in this necessity!"と言っています。小田島
雄志訳では<神よ、この危機にあるトールボット
を守りたまえ!>です」
「<必然>が<危機>になっている」
「坪内逍遙訳は<此窮迫に臨んで、神よ、彼れを
助けたまへ!>」
「<窮迫>は<窮境>に通じる。追い詰められて
せっぱつまった状況だ」
「窮境が人を鍛えるという思想は日本の戦国武将
にもありました。たとえば、<我に七難八苦を与
えたまえ>と三日月に祈った山中鹿之助を連想し
ます」
「沙翁の喜劇では、『お気に召すまま』で逆境
("adversity")がガマガエルにたとえられている。
そのセリフで使われている"adversity"のニュアン
スは"necessity"のそれに近いような気がする」
"Sweet are the uses of adversity,  
 which, like the toad, ugly and venomous, 
 Wears yet a precious jewel in his head; 
 And this our life, exempt from public haunt, 
 Finds tongues in trees, books in the  running brooks, 
 Sermons in stones, and good in everything."
 I would not change it." 
 逆境が人に与える教訓ほどうるわしいものはない、
 それはガマガエルに似て、姿は醜く毒を吐きはするが、
 その頭にはガマ石という貴重な宝石を蔵しておる。
 俗塵を遠く離れたここでのわれらの日々は、
 樹木にことばを聞き、せせらぎに書物を見いだし、
 小石に神の教えを読みとり、森羅万象に善を発見する。
 わしはこの生活を変えたくない。(小田島雄志訳)
 


必然(8)
   2017/7/13 (木) 06:17 by Sakana No.20170713061724

7月13日

"Queen Margaret. King Lewis and Lady Bona, hear me speak, 
 Before you answer Warwick. His demand 
 Springs not from Edward's well-meant honest love, 
 But from deceit bred by necessity;" 
王妃 ルイ陛下、ボーナ姫、ウォリックに答える前に 
 どうか私の話をお聞きください。ウォリックの要求は、
 エドワードのまことの愛から生まれたものではありません、
 欺瞞から生まれ、必要が育てた策略です。
     (『ヘンリー六世』第三部第三幕第三場)

「ウォリック伯爵はキングメーカー(国王の選
出や退陣に大きな影響力を持つ人物)と呼ばれ
る大物貴族です。イングランドの代表使節とし
てフランスのルイ国王を訪れたとき、彼の要求
は、<必要(necessity)が育てた策略>だと、
ヘンリー六世の妻、マーガレット王妃はフラン
スのルイ国王に訴えます」
「"necessity"という英単語を<必然>としたり
<必要>としたり訳し分けるのは公私混同で、お
かしい」
「公私混同?」
「ウォリックの必要(necessity)は私的な必要
だが、必然(necessity)は天の定める理法だ」
「天(heaven)とは何ですか?」
「・・・・・・」
「神(God)ではないですね」
「神でもなく、人でもない。天は天だ」
「天に人格を帯びさせると神にもなれば、人にも
なります」
「必然と必要との間を忖度するのはだれだ?」


必然(9)
   2017/7/16 (日) 08:21 by Sakana No.20170716082150

7月16日

"Richard III. It will not be avoided but by this. 
 Therefore, good mother,?I must can you so? 
 Be the attorney of my love to her: 
 Plead what I will be, not what I have been; 
 Not my deserts, but what I will deserve: 
 Urge the necessity and state of times, 
 And be not peevish-fond in great designs." 
リチャード それを避けうる道があるとすれば、ただ一つ、
 その一つによってしか、それを避ける道はない。
 だから母上ーーそうお呼びせねばならないがーー
 どうかあの人に私の愛をとりもっていただきたい。
 これまでの私をではなく、これからの私を。
 過去の功罪をではなく、未来の功績を訴え、
 現在の国情が要求するところを説いていただきたい。
 国家の大事において愚かにも道を誤らぬように。
    (『リチャード三世』第四幕第四場 小田島雄志訳)

「リチャード三世のセリフで、"Urge the necessity"
は小田島訳では<説いていただきたい>ですが、
直訳すれば、<必然を促す>です」
「促されて動くような必然は必然とはいえない」
「国王の権力をにぎったリチャード三世は、自
分の思い通りになるよう必然を促します。先王
エドワード四世の王妃に向かって、娘のエリザ
ベスを説いて、自分と結婚するようにしてくれ
と要求したのです」
「なぜエリザベスと結婚する必要があるのだ?」
「王位継承が正当化され、王権が安泰になるか
らです」
「すると、自分の必要のために必然を促してい
ることになる」
「必要と必然は双子の兄弟なのかもしれません」
「その二元論は日本語で考えるからだ。英語で
考えれば、necessityは一元論で融通無碍、矛盾
はない」
「そうでしょうか。なんだか口のうまいリチャ
ード三世に言いくるめられているような気がし
ます。巧言令色鮮(すくな)し仁」


逆境(2)
   2017/7/19 (水) 08:24 by Sakana No.20170719082459

7月19日

"Sir William Lucy. Whither, my lord? from bought and sold Lord Talbot; 
 Who, ring'd about with bold adversity, 
 Cries out for noble York and Somerset, 
 To beat assailing death from his weak legions: 
 And whiles the honourable captain there 
 Drops bloody sweat from his war-wearied limbs, 
 And, in advantage lingering, looks for rescue, 
 You, his false hopes, the trust of England's honour, 
 Keep off aloof with worthless emulation." 
 ルーシー どこへ? とにかく裏切られたトールボット卿からの
 使いです。卿は、血気さかんな敵軍に包囲され、
 ヨーク、サマセットの両公にむかって、攻め寄せる死神を
 弱体なわが軍からたたき帰してくれと叫んでおられます。
 ところが、あの名誉の勇士が戦に疲れた手足から
 血の汗流し、死力をつくして踏みとどまりながら
 援軍を求めておられるのに、イギリスの名誉を託された 
 あなたがた両公は、トールボットの希望を裏切り、
 くだらぬ嫉妬心から知らぬ顔で傍観しておられる。
   (『ヘンリー六世』第一部第四幕第四場 小田島雄志訳)

「こんどは、逆境という意味の"adversity"
が沙翁の原文で使われている例を見つけまし
た」
「小田島訳には<逆境>という訳語は使わ
れていない」
「<血気さかんな敵軍>と訳されています。
坪内逍遙訳では<強敵>です」
「<敵軍>や<強敵>では、<必然>という
意味からは遠い」
「いったんこの世に生をうければ、少なくと
も七人の敵ありというのが、<必然>のおき
てではないでしょうか」
「そう考えれば、"necessity"が"adversity"
に近づいてくるといえるかもしれない。とこ
ろで、ルーシーというのは女の名前だと思う
が、イングランド軍にもジャンヌ・ダルクの
ように勇敢な女がいたのか?」
「サー・ウィリアム・ルーシーはトールボッ
ト将軍の下で伝令役をつとめている将官の一
人で、男性です」


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則天去私の文学論 『英国篇:薔薇戦争』 長谷部さかな 著
 Copyright (C) Sakana Hasebe 2017