則天去私の文学論 『英国篇:薔薇戦争』

長谷部さかな 著

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はじめに 
   2017/5/1 (月) 07:32 by Sakana No.20170501073243

05月01日 

「それでは、幻の論文になってしまった夏目
漱石『則天去私の文学論』の内容がどんなも
のになり得たかについて、想像力をたくまし
くしながら、推理することにしましょう」
「想像力をたくましくするのはいいが、堅苦
しいのは困る」
「今まで通り、肩の力をぬき、気楽にやって
ください」
「もちろん気楽にやらせてもらうよ。資料は
あるのか?」
「資料は、とりあえず、三種類のペーパーを
用意します。『英国篇:薔薇戦争』と『米国
篇:多元的宇宙』、それに『日本篇:俳諧狂
句』の三本立てです」
「なるほど、英米日の三方面作戦か。それに
しても風変わりな趣向だな。則天去私の文学
的内容を推理するなら、漱石の娘婿松岡譲が
伝えているように『高慢と偏見』や『ウェイ
クフィールドの牧師』、あるいは『明暗』を
読むのが近道ではないか」
「その伝聞は私にはピンときません。それよ
りも『文学論』の隠し味、二人のウィリアム
(沙翁の歴史劇とジェームズの哲学)に注目
します。味読すればなにがしかの収穫が期待
できるかもしれません。さらに、断片的文学
の代表として、『日本篇:俳諧狂句』を追加
します」
「沙翁が『文学論』の隠し味だと?」
「『文学論』を三読、四読した結果、薔薇戦
争(1455-1485)とそれ以前の百年戦争(1337
-1453)関連の歴史劇からの引用が特に多いこ
とに気がつきました。薔薇戦争を知らずして
英文学は語れません。沙翁の歴史劇には則天
去私に通じるヒントが転がっているような気
がしています」



必然(neccesity)
   2017/5/4 (木) 06:58 by Sakana No.20170504065822

05月02日 

"Gaunt. There is no virtue like neccesity."
                ---Act I, sciii, II.
ゴーント 窮境ほどありがたいものはない。
       ーー『リチャード二世』第一幕第三場
                      (『文学論』上p132)

「最初から剛速球の難解句です。"There is no 
virtue like neccesity."を日本語に翻訳して
ください」
「必然にまさる徳なし」
「どういう意味ですか?」
「文字通りの意味だよ」
「窮境ほどありがたいものはない(夏目漱石
訳)、あるいは、窮境ほど結構なものはない
(坪内逍遙訳)、あるいは、窮境におちいっ
たときは、その窮境をして艱難汝を玉にす、
との教えを言わしむるがいい(小田島雄志訳)
―ーこのようにくだけた訳にしないと日本人の
読者には通じませんよ」
「英和辞典では、"necessity"の意味は必然と
なっている。沙翁の歴史劇の『リチャード二
世』から『リチャード三世』までをよく読む
と、やはりその訳で必然だと納得できる」
「そうでしょうか?」
「ここはリチャード二世から国外追放処分を
受けたランカスター家の嫡子ボリングブルッ
クを父親のランカスター公ジョン・オヴ・ゴ
ーントがなぐさめ、時節を待てと、臥薪嘗胆
を説いている場面だ。いずれ、リチャード二
世が、ボリングブルック(後のヘンリー四世)
に王位を明け渡し、さらにはヨーク家(白薔
薇)とランカスター家(赤薔薇)との骨肉相
食む薔薇戦争に発展する必然を予言している」
「リチャード二世にとってはそんな必然が徳
とは認められないでしょうね」
「必然がわからぬ者は没落する運命にある。
滅びの美も理解できない」
「滅びの美なら日本人でもわかりますが、必
然は日本人にはわかりにくい概念ですね」
「必然がわかれば則天去私もわかる。"necessity"
を逆境と訳し、源氏か平氏か、白薔薇か赤薔
薇か、というよう単純な対立軸を立てて、読
者の感情に訴えるだけの文学者ではダメだ」
「その点について、漱石先生はどのようなお
考えだったでしょうか」
「わからんが、無意識のうちに"necessity"を
則天と理解し、それに暗示を受けたという可
能性はないとはいえない」


必然(2)
   2017/5/7 (日) 09:18 by Sakana No.20170507091810

05月05日

"King. When Richard, with his eye brimful of tears,
  Then, checked and rated by Northumberand,
  Did speak these words, now proved a prophecy ?
  'Northumberland, thou ladder by the which
  My cousin Bolingbroke ascends my throne;'
  Though, then, God knows, I had no such intent
  But that necessity so bow'd the state
  That I and greatness were compell'd to kiss;"
王 あのときリチャードがノーサンバランドに激しく面詰されて
 目にいっぱい涙を浮かべて言ったことばも、いまは
 正しい予言であったとわかる。彼はこう言ったのだ、
 「ノーサンバランド、おまえはわしの従弟ボリングブルックを
 わしの王座に這い登らせる梯子の役をつとめるのか」
 もちろんあのとき、わしにはそような意図はなかった、
 ただ、歴史の必然のゆえに王位のほうから頭をたれてきて、
 わしとしてはやむをえずその王位に口づけしたのだ。
     (『ヘンリー四世』第二部第三幕第一場、小田島雄志訳)
 
「この場面で、"necessity"を小田島雄志は
<歴史の必然>と訳しています」
「唯物史観に影響された訳だ。資本主義はそ
の内在する矛盾から必然的に社会主義革命を
引き起こし、次の段階である共産主義に移行
するとマルクスは考えた。その予言を信じる
者は多数いたが、今のところハズレている」
「坪内逍遙は、<国家の必要上>と訳してい
ます。<予が王位に押し上げられたのは、全
く国家の必要上から起こったものだ>」
「"necessity"は、自分の行動を正当化するた
めにも使える都合のいい言葉であり、いかに
ももっともらしく、国民を納得させるような
ひびきをもつ、大げさで、もったいぶった言
葉でもあるという意味からすれば、逍遙訳は
うなずける。
漱石訳は?」
「『文学論』にはこの箇所の引用はありませ
ん」
「必然性には論理的必然性、因果的必然性、
道徳的必然性、内的必然性などがあるが、ラ
ンカスター公ジョン・オヴ・ゴーントが、
"There is no virtue like neccesity."と言
ったときの"neccesity"は、そのうちのどれに
あてはまるときみは思うか?」
「"virtue"(徳)ということばから判断する
と、道徳的必然性でしょう。ボリングブルッ
クの追放処分は善であるが故に遂行されたこ
とになります」
「一方、それを不服としたボリングブルック
が、反乱軍を組織し、リチャード二世から王
位を簒奪したことも道徳的必然性という解釈
も成立する」
「でも、論理的必然性はないですね。しかし、
歴史家から見れば、因果的必然性があり、ボ
リングブルックには内的必然性があったとは
いえるでしょう。いずれにしても必然は、科
学的な実験で証明することはできません」


必然(3)
   2017/5/8 (月) 05:49 by Sakana No.20170508054945

05月08日

"Warwick. There is a history in all men's lives,
  Figuring the nature of the times deceased;
  The which observed, a man may prophecy,
  With a near aim, of the main chance of things
  As yet not come to life, which in their seeds
  And weak beginnings lie intreasured
  Such things become the hatch and brood of time;
  And by the necessary form of this
  King Richard might create a perfect guess
  That great Nurthumberland, then false to him,
  Would of that seed would grow to a greater falseness;
  When should not find a ground to root upon,
  Unless on you.
King. Are these things then necessities ?
  Then let us meet them like necessities." 
ウォリック 人の一生はいわばそれぞれの歴史物語であって、
 そこには過ぎ去った時々の特質が描き出されております。
 それを読みとりさえすれば、いまだ日の目を見てはおらず
 種のかたちでやっといのちをもちはじめたばかりの
 将来の事態を、そう的をはずさずに予言することは、
 だれにでもできることです。それは「時」があたため、
 やがて孵化(かえ)らせて雛にするものなのですから。
 リチャード王も、この必然の理法にのっとって
 みごとに推理なされただけのことでしょう。あのとき
 同王にたいして裏切りを働いたノーサンバランドであれば、
 その種がさらにおおいなる裏切りへと成長するのは当然であり、
 それが根を張り伸ばそうとする地面を陛下に見いだすのは
 必然なのですから。
王 では今日の事態も必然の結果なのだな?
   とすれば、われわれも必然のこととして対処せねばならぬ。
    (『ヘンリー四世』第二部第三幕第一場、小田島雄志訳)

「小田島雄志訳で"the necessary form"を
<必然の理法>、"necessities"は<必然の
結果>となっています。坪内逍遙訳では<必
然の様式>と<必然の結果>。漱石訳は不明
です」
「いずれにしても"necessity"が<必然>と
いう意味であることが確認された。したがっ
て、"There is no virtue like neccesity."
という英文を、窮境ほどありがたいものはな
い(夏目漱石訳)、あるいは、窮境ほど結構
なものはない(坪内逍遙訳)とするのは、不
十分で不適切な参考訳にすぎないと断言でき
る」
「そんなことをいったら漱石先生や逍遙先生
に失礼です」
「参考訳と言っただけで、誤訳とは言ってい
ない。失礼も無礼もあるものか」


逆境(adversity)
   2017/5/11 (木) 06:56 by Sakana No.20170511065651

05月11日

King Henry. Let me embrace thee, sour adversity,
 For wise men say it is the wisest course.
王 つらい逆境よ、喜んでおまえを抱きしめるぞ、
 それがもっとも賢明な道と賢者も教えている。
 (『ヘンリー六世』第三部第三幕第一場)小田島雄志訳)

「こんどは逆に考えて、<逆境>という表現
が使われている例が沙翁歴史劇の日本語訳に
ないものかと探してみました」
「あったかい?」
「やっと見つかりました。それにたいして原
文ではどう表現されているかに注目してくだ
さい」
「"sour adversity"か、なるほど。ところで、
坪内逍遙訳でも<逆境>となっているのか?」
「逍遙訳では<逆運>です。あゝ、辛い逆運
よ、おれは汝を歓迎しよう。さうするのが賢
明(な仕方)だと賢人が訓(おし)へてゐる」
「<逆境>にしても<逆運>にしても対応す
る英語は、"adversity"で、"neccesity"では
ないことのウラがとれたことになる」
「ちなみに、"in prosperity and adversity"
という成句が英語にあり、<順境にあっても
逆境にあっても>と日本語には訳されていま
す」
「必然には順境も逆境も含まれているとすれ
ば、原文の隠れたニュアンスまで考慮に入れ
て推理すると、"There is no virtue like 
necessity both in proseperity and adversity."
というのが本来の言い方ではないだろうか」


苦境(in heavy plight)
   2017/5/14 (日) 06:15 by Sakana No.20170514061530

05月14日

"Queen Margaret. And if thou fail us, all our hope is done;
 Scotland hath will to help, but cannot help;
 Our people and our peers are both misled,
 Our treasure seized, our soldiers put to fight,
 And, as thou seest, ourselves in heavy plight."
王妃 お聞き入れくだされなければ、私たちの望みは断たれます、
 スコットランド王には助ける意志はあってもその力がなく、
 イングランドの平民と貴族はすでにたぶらかされており、
 私たちの財宝は奪われ、兵士たちはちりじりとなり、
 私たち自身苦境に立たされているのです、ごらんの通り。
  (『ヘンリー六世』第三部第三幕第三場 小田島雄志訳)

「テュークスベリーの戦いで敗れ、フランス
に逃れたヘンリー六世の王妃マーガレットの
セリフでは、窮境の代わりに苦境という言葉
が使われています」
「"in heavy plight"ーー<重苦しい状態に>
か。たしかに負け戦の後の気分は伝わってく
る」
「艱難汝を玉にす、といって日本人の武将な
ら励ます場面でしょうね」
「その諺の出典を知っているか?」
「さあ、たぶん『論語』でしょう」
「もともとは英語の、"Hardship makes a man 
wise."を漢籍の素養のある日本人が翻訳した
ものらしい」
「英語から輸入した外来の表現とは知りませ
んでした」
「ただし、マーガレット王妃は男ではない。
男のような勇猛な女だが、彼女は逆境によっ
て賢くなったとはいえないから、出典は『ヘ
ンリー六世』ではないと思う」
「沙翁よりもっと古い時代からあった表現な
のでしょうか?」
「そんなことはわからん。英文学の先生に聞
いてくれ」


艱難辛苦(grievous thoughts)
   2017/5/17 (水) 06:01 by Sakana No.20170517060113

05月17日

"King Edward. Audley, content; I will not have a man,
 On pain of death, sent forth to succour him:
 This is the day, ordained by destiny,
 To season his courage with those grievous thoughts,
 That, if he breaketh out, Nestor’s years on earth
 Will make him savor still of this exploit."
王 オードリー、落ち着け。一兵卒たりとも、
 あいつを救うために送り出せば、首をはねるぞ。
 今日という日は、こうした艱難辛苦で
 あいつの勇気を鍛えるべしと運命が定めた日なのだ。
 もし脱出できれば、老いたる知将ネストールの年になるまで、
 やつはこの手柄をいつまでも思い出すことになろう。
     (『エドワード三世』第三幕第五場 河村祥一郎訳)

「逆境("adversity")苦境("in heavy plight")
にともなう艱難辛苦という表現を、『エドワード
三世』河村祥一郎訳で見つけました」
「艱難辛苦("grievous thoughts")? 直訳す
れば、<苦しい思い>だと思うが」
「艱難汝を玉にす("Hardship makes a man wise.")
という外来の諺を連想します。必然("necessity")
も連想するともいえるかな?」
「たしかに、 <運命が定めた>("ordained by 
destiny"という表現と結びつけて考えると、必
然("necessity")に近づいてくる」
「必然は運命論者エドワード三世の思想だった
ようです。救援をもとめる黒皇太子の依頼をし
りぞけ、負け戦の戦場からの脱出を運命のなす
がままにまかせたのですから」
「そういいながら、一方では艱難辛苦で勇気を
鍛えて自由意志で自力脱出する根性を黒皇太子
に期待している」
「トルストイの『戦争と平和』の最後で、作者が
必然と自由についての長い論文を加えています。
トルストイが何のためにそんな講釈をつけ加えた
のかわかりませんでしたが、薔薇戦争のおかげで、
すこし理解できかけたるような気がします」
「それはともかく、薔薇戦争のテクストは『リチ
ャード二世』から『リチャード三世』までだと思
っていたが、『リチャード二世』よりも古い時代
を題材とする『エドワード三世』も含めるとは聞
いていないぞ」
「つい、うっかりしてご連絡が遅れました。『エ
ドワード三世』が沙翁の作品として認められたの
は最近のことです。おそらく夏目漱石は読んでい
ないでしょう」
「坪内逍遙訳や小田島雄志訳もない」
「その埋め合わせになるかどうかわかりませんが、
薔薇戦争記念回文三句ができたので、鑑賞してく
ださい」

 ・君子の子艱難なんか此の辛苦  酒菜
 ・君子らは艱難なんか薔薇深紅    酒菜
  ・白知らば艱難なんか薔薇白し  酒菜


逆風(forward winds)
   2017/5/20 (土) 06:56 by Sakana No.20170520065639

05月20日

"King John. Retreat is sounded; one side hath the worse;
 O, if it be the French, sweet fortune, turn;
 And, in thy turning, change the forward winds,
 That, with advantage of a favoring sky,
 Our men may vanquish, and the other fly!"
ジャン王 退却ラッパが鳴った。どちらかが劣勢になった。
 ああ、もしそれがフランス側なら、すてきな運命の女神よ、
 振り返ってくれ、振り返りざまに、逆風を順風に変えてくれ。
 有利な空を味方につけ、わが軍が勝利し、
 敵が逃げるように。
  (『エドワード三世』第三幕第一場 河村祥一郎訳)

「得手に帆を揚げる、ということわざを英語
でいうと、"Hoist your sail when the wind 
is fair."です」
「逆風になれば、"when the wind is unfair"
というのか?」
「さあ? 逆風は"an adverse wind"だと思
いますが、"unfair"ともいうかもしれません」
「"fair"か"unfair"か、それが問題だ」
「『エドワード三世』には"change the forward 
winds"という表現が使われており、河村祥一
郎訳では、<逆風を順風に変えてくれ>とな
っています」
「うまい訳だ」
「すると、逆風の英語は"the forward winds"
なのでしょうか?」
「前方から吹いてくる風は逆風になる」
「では、後方から押してくる風は"the backward 
winds"というリクツになりますが」
「そうは云わない。順風は、"an favourable 
wind"だ」
「そうですか。英語は必ずしも論理的な言語
ではないですね」
「きみの脳の働きが論理的でないことを心配
をしたほうがよい」


不幸な出来事(mischance)
   2017/5/23 (火) 07:18 by Sakana No.20170523071858

05月23日

"King.  And sit thee by our side; [Seats her by him]  yield not thy neck
 To fortune’s yoke, but let thy dauntless mind
 Still ride in triumph over all mischance."
王 私のそばにおかけなさい。
 そのお身を運命の頸木にゆだね、
 いいようにあやつられてはなるまい、昂然と胸を張り、
 あらゆる不幸にうちまたがり、乗りこなすことだ。
  (『ヘンリー六世』第三部第三幕第三場 小田島雄志訳)

「フランス国王のルイ十一世が、失意のマー
ガレット王妃を慰めている場面です」
「原文では"mischance"という単語が使われ
ている」
「<不幸な出来事>という意味ですね。王妃
はテュークスベリーの戦いで、ヨーク家のエ
ドワード四世の軍勢に敗れ、夫と息子は殺さ
れました。チャンスを生かすことができなか
ったのです」
「不幸は逆境、苦境、艱難辛苦、逆風などと
はすこしニュアンスが違うが、まあ似たよう
な状況として分類できるだろう。昔の中国人
なら、禍福はあざなえる玉の如し、といって
王妃を慰めるところだ」
「英語でも、"Good and ill luck are next-door 
neighbors."という表現があります」
「人間万事塞翁が馬、ともいう」
「"Inscrutable are the ways of heaven."」
「天網恢々疎にして漏らさず」
「"Heaven's vengeance is slow but sure." 」
「天知る地知る我知る人知る」
「"Heavens are got to know. The ground 
is got to know. Self is got to know. People 
are got to know. An evil deed is certainly 
discovered.」
「英国人も中国人も同じような発想の表現を
する。日本人学びて思わざればすなわち罔(く
ら)し、思いて学ばざればすなわち殆(あやう)
し。
("To study and not think is a waste, to think 
and not study is dangerous. )」


偶然(chance)
   2017/5/26 (金) 07:46 by Sakana No.20170526074649

05月26日

"     …how chances mock,
And changes fill the cup of alterration
With divers liquors !  O, if this were seen,
 The happiest youth, viewing his progress through,
 What perils past, what crosses to ensue,
 Would shut the book, and sit him down and die."
王 さらには、偶然がいかに
人間をもてあそび、世の移り変わりがいかに人生の杯を 
さまざまな酒で満たすか予測することができるならば!
ああ、そのようなものが見通せるなら、いかに幸福な若者も
自分の人生航路における過去の危険、未来の不幸を思って、
運命の書を閉じ、がっくり膝をつき、死を選ぶかもしれぬ。
       (『ヘンリー四世』第二部第三幕第一場 小田島雄志訳)

「必然("necessity")にたいして偶然は英語
でどういうのだろうと考えながら読んでいる
うちに、チャンス("chances")という単語に
目がとまりました」
「偶然、チャンスという単語にめぐりあった
というかたちだな」
「ちょっと意外でしたね。野球でチャンスと
いうように、その外来語は好機という意味だ
と思っていました」
「好機("a lucky chance")ばかりとはかぎ
らない。あいにく悪い機会("a bad luck")
のめぐりあう偶然もある」
「すると、必然は徳("virtue")だといえても、
偶然は徳("virtue")とはいえませんね」
「チャンスをつかんだのはたまたま運がよか
ったからにすぎない。だから、そんなものは
徳("virtue")とはいわない」


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則天去私の文学論 『英国篇:薔薇戦争』 長谷部さかな 著
 Copyright (C) Sakana Hasebe 2017