「follow suit と傾城の美女」 文/北松 拓也

 ある事案について、アメリカが自国と同じ行動を取るように日本に求めてき たことを伝える英語のニュース記事があり、そこに follow suit という熟語が 用いられていました。  この熟語は、「(トランプで)先に出された札と同じ組の札を出す」という のが元の意味ですが、そこから転じて「(前の)人のまねをする、先例になら う」という意味にも使われています。上記のニュース記事では、後者の意味に 使われていました。  ところで、話が飛びますが、この熟語を見て思い出したのが「顰(ひそ)み に倣(なら)う」という表現です。これをもっと詳しく言えば、「西施(せい し)の顰みに倣う」という言い方になります。  これは、西施という名の美貌の人が心臓の病のために苦しげに眉をひそめた のを醜女(しこめ)が見て、そのようにすれば美しく見えるのだと思い、その まねをしたという中国の故事に由来する表現です。今日の日本語では、人に倣 って同じようなことをすることを謙遜していう言葉として、単に「顰みに倣う」 と言うことが多いでしょう。  西施は「傾国の美女」あるいは「傾城(けいせい)の美女」とも言われ、中 国四大美女の一人に数えられる紀元前5世紀の越(えつ)の人でした。このこ とを知っていた江戸時代の松尾芭蕉は、頭に思い描いた西施のイメージを目の 前の風景に重ね合わせて、『奥の細道』に次のような句を詠んでいます。   象潟や雨に西施がねぶの花   松尾芭蕉  象潟(きさかた)は、秋田県南西部の海岸にあった潟湖(せきこ)で、九十 九島・八十八潟の景勝はかつて松島と並び称されたといいますが、残念ながら 1804(文化1)年の大地震で隆起して消失してしまい、今は見ることができま せん。                          (2016/7/9)