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『文学論』──自己本位の読み方のまとめ
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『文学論』のまとめは不可能か
   2016/9/1 (木) 07:44 by Sakana No.20160901074430

09月01日

「それでは、いよいよ『文学論』のまとめに
とりかかります」
「まとめることができるのか?」
「なんとかなるでしょう」
「世の中に片付くものは殆どありゃしないと
『道草』の健三は嘆いているぞ」
「健三は馬鹿です。坊ちゃんも馬鹿、苦沙弥
も馬鹿、三四郎も馬鹿、先生も馬鹿」
「それでは『文学論』が『馬鹿論』になって
しまう」
「漱石先生の自己評価でも、『文学論』は学
理的閑文字であり、失敗の亡骸(なきがら)
あるいは立派に建設されないうちに地震で倒
された未成市街の廃墟のようなものですから、
『馬鹿論』と言い換えてもよいかもしれませ
んが、それでも何らかのかたちでまとめよう
とするところに意義があると思います」
「そうかな?」
「根本的に文学とは如何なるものぞという問
いかけにはやはり考えさせられるところが多
々あります」
「下手な考え休むに似たり。馬鹿がなにを考
えても意味がない」
「余は思考す故に余は存在す。人間は考える
葦である」
「では、根本的に文学とは如何なるものぞ」
「その問いへの答の手がかりは『文学論』の
随所にころがっています」


価値以外に作物の生命を支配する条項
   2016/8/29 (月) 05:43 by Sakana No.20160829054341

08月29日

「同一の暗示を発現した文学作品の生命(=
耐用年数)を決めるのは作品の価値だけでは
ありません」
「価値の他に何がある?」
「たとえば、時の先後。俗にいう早いもの勝
で、その作品を最初に公にしたものが類似作
品に比べてもっとも長命ということがありま
す」
「短命のこともある」
「遅れて公にされた作品のほうが長命のこと
もないことはありません。また、前なるも滅
し、後なるも滅して、ただ中間に出でたるも
のが強く人の心を動かし、永く世間に記憶さ
れることもあります」
「しかし、そんなことまでわざわざ文学論の
補遺として考える必要があるだろうか」
「本章に述ぶる所は凡て布衍(ふえん)して、
詳論する価値あるものなり。不幸にして材料
時日の欠乏により吾意の如くするを得ず。因
つて補遺としてその大要を約言す」
「お疲れさま」
「文学論として論ずべき事項は以上五篇にて
悉くせるにあらず。漸くに論じ得たる以上五
篇もまたその布置、繁簡、段落、推論、の諸
点において余が意に満たざるもの頗る多し。
かつ忙中に閑を偸(ぬす)んで随書随刷僅か
に業を卒(おわ)るを得たるを以て、思索推
敲の暇(いとま)なきよりして、罪を大方に
得る事多からん、読者これを諒せよ」
「諒せよといわれれば諒するしかない」


暗示の種類、方向とその生命
   2016/8/26 (金) 06:58 by Sakana No.20160826065805

08月26日

「新旧精粗に関して暗示の種類も補遺にふく
まれています。せっかくですからふれておき
ましょう」
「暗示にも種類があるのか?」
「ええと、六種類ですが、例外を除くと次の
四種類になります。
 1)(現在の意識)+(古)
 2)(現在の意識)+(古+古)
 3)(現在の意識)+(新)
 4)(現在の意識)+(新+古)
そのうち、1)と2)の二種だけを選んで簡
単な例証を試みることにします。1)は復興
(リバイバルあるいはルネッサンス)、2)
は連結の復興です」
「そんな分類に何の意味があるのか。『文学
論』は補遺に至って、枝葉末節の迷路に入り
込んでしまったとしか思えない」
「暗示の方向とその生命についても一言なか
るべからず」
「勝手にしろ」
「この項もまた説いて精該なる能はず。ただ
一言にしてその要を弁ずるのみ」
「わかりやすい説明にしてほしい」
「ある時期において新しい暗示が発現する書
籍が続々と発刊される場合を考えてください。
それらの書籍はいずれも類似性を帯びていま
す。その中でどの書籍がもっとも長命だと思
いますか」
「それはもっとも価値のある書籍だろう」
「必ずしもそうとはかぎらないのです。作品
に対する善悪の標準は、私たちの趣味にすぎ
ず、私たちの趣味は常に推移するにもかかわ
らず、必ずしも発達を意味するとはいえませ
ん。もっとも価値ありと認められた作品は、
趣味のいまだ推移せざる今日において価値あ
りとされているだけのことです」」
「よいものが残り、悪しきものが滅びること
にはならないのか」
「人間はしかく具眼の動物にあらず。またし
かく公平の動物にあらず。しかあるべしの世
界を夢みて、長(とこし)へに、しかある世
界に彷徨する愚かなる動物なり」
「けっきょく、何を言いたいのか」



道徳と文学
   2016/8/23 (火) 08:31 by Sakana No.20160823083142

08月23日

「次に道徳と文学との関係について一言せん
と欲す」
「一言でも二言でも、遠慮なくやってくれ」
「然れども単に例を挙げるを目的とするが故
に、説く所はただ数行に過ぎず」
「なんだ」
「A.W.Wardはその著A History of English
Literatureにおいて沙翁以後復古時代に至つ
て、劇にあらはれたる徳義的精神の次第に衰
頽せるを論じて曰く。<この堕落は固より程
度において一様ならずと雖ども、当時の劇文
学に在つては疑もなき一種の特色にして、遂
には道徳的堕落となってあらはるるに至れり。
ある評家は道徳を以て芸術上の作品と全然交
渉なきものとなす。されども一国民の芸術的
生活の進歩を、一般歴史の進歩の傍に置いて
思索せば、何人も反対の結論に達するを疑わ
ず>」
「要するに、道徳と文学は没交渉であり、ま
ったく関係がないという考え方と関係がある
という考え方の二通りがある」
「沙翁自身すら、吾人の知る所を以てすれば、
自由なる市民的徳義の最高理想を実現せる事
あらず。彼の描写せるBrutusは、実にこの概
念を具体化せるもの、然も半ば修辞的にして、
半ば凄愴なる霧中に包囲せらるるに似たり」
「漱石の文学だって徳義的とはいえないもの
もある。沙翁の文学の道徳性の欠如をとやか
く批判はできない」


政治と文学
   2016/8/20 (土) 07:52 by Sakana No.20160820075209

08月20日

「次に政治と文学の関係について一言せんと
す」
「文学とはもともと修身斉家国平天下だ。つ
まり、政治と文学は一体だった。詩心が湧い
てくれば、漢詩をつくればよい」
「でも、残念ながら日本人は西洋文学の影響
を受けすぎて、漢詩をつくる習慣を忘れてし
まいました」
「せっかくの文学的遺産を放棄するとはもっ
たいない」
「その代わり、文学はフランス革命やロシア
革命や第一次&第二次世界大戦などから甚大
なる影響を受けています」
「第二次世界大戦後には政治と文学をめぐっ
て不毛な論争が盛んに行われた。阿呆らしい」
「真剣な議論を阿呆らしいというのは聞き捨
てにできません。ギロチンで首をはねられて
もいいのですか」
「なまなましすぎる議論は聞きたくないが、
フランス革命が英国の文学者に与えた影響と
いう点に問題をかぎってくれるなら耳を傾け
てもよい」
「当時の英国作家にして、この影響を蒙らざ
るは殆ど稀なりとす。Burns然り、Southey然
り、Coleridge然り。SoutheyのJane of Arcは
浪漫的にして、革命主義をかねたるものとし
て著るしき作物なりといはざるべからず。沈
着なるWordsworthの如きすらルイ十六世の所
刑を正当と認めて、仏国革命に対する弁護を
草せるに至れり。その他Mooreあり、Landorあ
り、Byronあり。彼らの詩中に革命主義の蟠ま
るは読者の夙に知る所なり」
「そんなことは知る所にあらず」


物質的状況と文学
   2016/8/17 (水) 07:47 by Sakana No.20160817074711

08月17日

「物質的状況が文学に与える影響について考
えたいと思います」
「文学は精神だ。物質の支配などは受けたく
ない」
「そうは言っても霞を食って生きていくわけ
にもいきません。漱石先生はそこまで考えて、
文学者のための著作権の確立に貢献されまし
た」
「そういえば、『金色夜叉』の作者尾崎紅葉
の家族は著作権の恩恵を受けなかったが、夏
目漱石の家族はその恩恵を受けたと伝えられ
ている」
「トルストイは著作権を譲渡するかどうかで
ソーニャ夫人ともめたといわれていますね。
物質的状況が文学に与える影響がいかに大き
いかは、エリザベス朝文学を見ればわかりま
す」
「エリザベス一世(在位1588-1603)と次のジ
ェイムズ一世(在位1603-1625)の時代という
と、沙翁シェイクスピアが活躍した英文学史
にあっては空前絶後の盛時だ」
「そのような文学の黄金期は当時の物質的状
況を反映しています」
「どんな物質的状況だ?」
「たとえば、農業の改良(厳冬期にも羊群を
飼養できるようになり、庶民の食生活が改善
された)、煉瓦の再発見(1450年。家屋の改
良を促し、庶民も硝子、絨毯、枕などを使用
するようになった)、スペインの無敵艦隊の
撃滅(1588年。アルマダの海戦の勝利により
国民が自信を抱き、気象が雄大になった)な
どがもたらした物質的状況です」


文界に及ぼす暗示の種類
   2016/8/14 (日) 07:24 by Sakana No.20160814072449

08月14日

「補遺としてとりあげられているのは、まず
『文界に及ぼす暗示の種類』という論点です」
「文界とはどこだ?」
「文学界でしょう。独立し、閉じた系のように
見えますが、実は政界、経済界、学界、教育界、
物質界など外部からの暗示を受ける開かれた系
なのです」
「『文学論』は開かれた系への出入口まで考え
て設計されているんだな」
「ええ、建築の設計のようなものです。文界の
意識に限るときは、文学の内容は感覚F、人事
F、超自然F、知的Fの四種の材料を以て成り
ますから、あらゆる暗示は皆この四要素の形を
以て注流して来ます」
「そうか」
「しかし、文学は人間活動の一発現にすぎませ
ん。この発現は単独に自由の行路を取ることは
できず、他の活動の上にその勢力を及ぼすと同
時に、他の活動からも影響を受けます」
「それで?」
「ある文学的暗示の原因結果を論じるとき、単
に文学的潮流のみを眼中に置いて、他の活動を
閑却してはいけないのです」
「人間活動の大いなる発現にはどんな方面があ
るのか」
「大別すれば次の通りとなっています。
 (一)経済的及び科学的状況
 (二)精神的(哲学及び宗教等より生じる)
    状況
 (三)政治的状況等」
「経済的と科学的を一緒くたにするとはずいぶ
んいいかげんな分類だ。また、本論では哲学者
を科学者と一緒にしていたのに、ここでは哲学
と科学を分離している。支離滅裂だ」


補遺
   2016/8/11 (木) 09:03 by Sakana No.20160811090325

08月11日

「以上で『文学論』を三回通読したことにな
ります」
「今回はまとめを意識して読むと言っていた
が、まとめになっていないではないか」
「まとめを意識して読むという言いましたが、
まとめるとは言っていません。そもそも『文
学論』をまとめることが現実的に可能なので
しょうか」
「今さら言い逃れをするな」
「錯覚かもしれませんが、時間をかけて三回
通読することによってこの難解な書の理解が
ある程度は進んだような気がします。まだ、
八カ月ありますから、それまでに何らかのま
とめができるかどうか考えることにします」
「なんらかのかたちでけじめはつけてほしい」
「その前に『補遺』としていくつかの論点が
提示されていますから、一通り見ておきまし
ょう」
「『文学論』はどうしても論じたりないとこ
ろが出てくるが、何もかもいちいち論じだす
ときりがない」
「『文学論』で補遺とされているのは次のよ
うな論点で、それほど多くはありません。そ
の他、漱石先生の小説や随筆、講演なども見
方によっては補遺のようなものですから、そ
れらも参考にしましょう。

 文界に及ぼす暗示の種類
 物質的状況と文学
 政治と文学
 政治と文学
 新旧精粗に関して暗示の種類
 暗示の方向とその生命
 価値以外に作物の生命を支配する条項」


原則の応用(四)
   2016/8/8 (月) 07:25 by Sakana No.20160808072508

08月08日

「最後に、焦点意識に競争あり、という原則
について考え、第五編 集合的Fをしめたい
と思います」
「焦点意識F---凡そ文学的型式の内容は
(F+f)なることを要すという『文学論』
の出発点に戻るのか」
「ええ、ですが、出発点における焦点的意識
Fは、個人的な意識ですが、第五章 集合的
F、で集合意識という場合は、日本人あるい
は人類の集合意識になります。つまり、個人
の意識Fの座をF’やF’’などが争うよう
に集合的意識Fも焦点意識の座を争うのです」
「例をあげて、説明してくれ」
「もっとも悲酸なる例はフランスの印象派が
始めて自己を天下に紹介した初期の歴史です。
サロンに出品も与えられず、アカデミー派は
彼ら印象派を目して狂人となし、その作品を
評して全然美術の法則を蔑視せりとし、保護
を与えるどこらか、百方その発達を阻害しよ
うと試みました」
「それでも、印象派は天下をとった」
「そうですね。集合的Fおそるべし。読書専
念、忽ち蚤に刺され驚くは、蚤が意識の天下
を領したるに異ならず」


原則の応用(三)
   2016/8/6 (土) 07:09 by Sakana No.20160806070905

08月05日

「吾人意識の推移は次第なるを便とす」
「何だと?」
「吾人意識の推移は突飛なるべからず。次第
なるを便利とす」
「次第なるとはどういう意味だ?」
「吾人意識の推移は漸次ならざるべからず、
という意味です」
「具体的な例をあげて説明してくれ」
「沙翁は千古の大家なり。全欧の天才なり。
これ万口の一致する所。何人もこの断案に対
して異議を挟むものなきが如し」
「レフ・トルストイが異議を挟んでいる」
「そうでしたね。Thomas RymerやC. Rennoxも
沙翁を以って一読の価値なしと云いました。
ゴールドスミスやポープも沙翁をけなしてい
ます。ところが、誰が何と言おうと、今や沙
翁は千古の大家という評価が確立しています。
沙翁崇拝の暗示は十九世紀の始めに成りしが
如しと雖も、意識の推移は百年前より漸次に
ここに到達せるものなり。この評価は吾人意
識の推移が次第なるを便利とす、漸次ならざ
るべからずという原則を証明しているのです」
「なんだ、それだけのことか」
「それだけの事実です」


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