蒼き読書記
北松拓也
 
 ID


全11件 <更新> ページ移動 ⇒ [ 1終了]

PAGE 2 (11〜11)


『アメリカの文化戦争』について
   2015/9/21 (月) 00:08 by 北松拓也 No.20150921000806

トッド・ギトリン『アメリカの文化戦争 ──たそがれゆく共通の夢』
疋田三良・向井俊二 訳/解説 樋口映美、彩流社

【コメント】
 この翻訳書が刊行されたのは2001年ですが、英語の原書は1995年に初版が出
版されています。したがって、原書の出版からすでに20年が経過しています。
しかし、この本に書かれている内容はアメリカ社会の成り立ちや根源的な社会
問題などを知るうえで、今でも非常に参考になります。

 この世界には人類共通の普遍的な理念や真理というものが存在するものと信
じている人間がいます。私もその一人ですが、そういう普遍的な理念や真理を
追求してきた人間にとって、この本に書かれているアメリカ社会の実相は衝撃
的なものと言ってよいと思います。

 ホートン・ミフリン社の歴史教科書の内容、とりわけ歴史認識を巡ってカリ
フォルニア州オークランド市で繰り広げられた火の出るような激しい論争の事
実関係から書き起こされた本書は、アメリカ合衆国という多人種・多民族・多
文化の社会が抱えている問題の根深さを、建国以来の歴史的な考察を含めて多
角的に浮き彫りにしています。

 啓蒙思想の根幹である理性に基づく普遍主義でさえも、もはや白人中心主義
の偏見として否定されるようになってしまったアメリカ社会では、人種・民族・
文化・伝統・宗教・価値観などを異にする多数のグループが自らのアイデンテ
ィティを主張してせめぎ合う分裂状態になっているといいます。「アメリカと
は何か」「アメリカ人とは何か」といった統一的な理念についての問いには答
えられないというのが、1995年時点でのアメリカ合衆国の実情のようです。

 奴隷解放運動、公民権運動、アファーマティブ・アクション(積極的差別是
正措置)、PC運動など市民の自由・平等の権利を求める激動の歴史を経験し
てきたアメリカ社会は、分厚く強靭で多種多様な言論が巨大な渦を巻き、驚く
ほどダイナミックに変化し続けています。

 ちなみに、著者のトッド・ギトリン氏は1960年代の左翼の活動家で、この本
の執筆当時は大学で社会学を教える教授であり、また家系としてはユダヤ系の
白人です。

 この本の後ろの方に記載されている解説では、著者の説明が足りない部分や、
問題の扱い方に偏りがある部分などを的確に指摘し、客観的視点から補足説明
などを加え、バランスの取れた翻訳書に仕上げています。一般的に、本の内容
についての称賛や、記述の手際の良さなどへの賛美に終始するような解説が多
い中で、本書のように著者の行き届かない点を率直に取り上げているのは、学
究としての真摯な姿勢が感じられます。そして、それを是とした出版社の担当
編集者も立派だと思います。


ページ移動 ⇒ [ 1終了] <照会>
 
「蒼き読書記」 文/北松 拓也
 Copyright © Takuya Kitamatsu 2017