夏目漱石の『文学論』を読みとく

長谷部さかな 著
 
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自己の投出
   2010/2/8 (月) 08:09 by Sakana No.20100208080902

2月8日

「自然界の事物への自己の投出は人間の心理
的習癖に基づいています」
「花や雲への投出なら考えられるが、何にで
も投出できるとは思えない」
「軟体動物にだって自己を投出できますよ。
ロジェ・カイヨワ『蛸 : 想像の世界を支配す
る論理をさぐる』を読んでください」
「そんなゲテモノ本をヒマはない」
「では、ヴァーノン・リー『最近美学』はど
うでしょう。漱石先生はちゃんと読んでおら
れます」

 「吾人の内的経験を投出して、日常目撃す
る実在物体に適用する作用を云々するに至り
しは、全く近世美学の発見に係(かかわ)る
ものにして、勿論古来幾多の心理学者、詩人
の、時に触れ、多少意をここにそそぎしもの
無きにはあらざりしも、この方面に確然たる
議論を試み、適当の命題を樹立し得たるは
Lotzeを以て嚆矢(こうし)となす。彼は約五
十年前Mikrakosmosの中に述べて曰く、<全て
世の中に、在りと在らゆるものは、吾人の想
像力により、皆悉(ことごと)く吾人とも多
少の接触を保ち得るものにして、吾人はかく
してそれら物体の本質を窺(うかが)ひ識
(し)ることを得るなり。而(しか)して
他物に自己を入り込ましむる可能力の範囲は、
必しも吾人に類似の生活状態を営むものに限
らるるものに非ず。軟体動物の如きにも同様
の現象を生ずることを得。或時は木に枝の生
ひ出づる様を自己に引き直し、或時は建物の
部分を人体の部分に当てはむ、これ即ち自己
を樹木に投出し、建物に投出する実例なり」
ーーーVernon Lee『最近美学』第五巻第二章
(一九○四年四月発行The Quarterly Review第三九八号所載)


投入語法
   2010/2/11 (木) 08:08 by Sakana No.20100211080838

2月11日

「第四編文学的内容の相互関係の第一章は投
出語法。続く第二章は投入語法です」
「インプットあればアウトプットあり。順序
が逆ではないか?」
「自己の情緒を投出(project)して外界を説明
する手段となす、というのが投出語法。それ
に対して、自己を解くに物を以ってする連想
が投入語法──したがって、径路が正反対で
す」
「具体的な例をあげて説明してくれ」
「シェイクスピア『リチャード三世』の用例
でいうと、<恐ろしい面構えの戦争>は自己
の情緒を投出した語法ですが、<高くそびえ
る木は、大風に揺さぶられることが多い>は
人が苦悶する様を喬木風に悩むと解した投入
語法です」
「自己を世界の中心と考えれば、投出が先で、
投入が後か、なるほど」
「<天哭す>というのも投出語法です。現実
に天が哭すわけではありませんが、自己の情
を天に投出しています」
「いずれも人事的材料だな」
「感覚的材料もありますが、それについては
次回ということで・・・」

<投出語法>
"Grim-visaged war."
 --- Richard III. Act I. sc. i. 1. 9
(恐ろしい面構えの戦争
──『リチャード三世』第一幕第一場、九行)

<投入語法>
"They that stand high have many blasts to shake them."
--- Richard III. Act I. sc. iii. 1. 259
(高くそびえる木は、大風に揺さぶられることが多い。
──『リチャード三世』第一幕第三場、二五九行)



感覚的材料
   2010/2/14 (日) 09:06 by Sakana No.20100214090607

2月14日

「感覚的材料を用いた投入語法の用例として
キーツの詩を鑑賞しましょう」
「静かに落ち着いた、おだやかな乙女のたた
ずまいを、柳の木が曲がりくねってそばを流
れる川をじっと見守るさまにたとえている」
「心には形も色もありません。したがって、
心の平らかなるを描写するには、このような
柳の木のような感覚的材料をかりてきてはじ
めて強い印象を読者に与えることができます」
「二本の薔薇は二人の美人か」
「美人の容貌を描写するのに叙述が長すぎる
とまとまらないし、しいてまとめようとする
と必要な印象が生じにくくなります」
「美人を薔薇にたとえればそれですむという
わけか。詩人は気楽だね」

 "And as a willow keeps
A patient watch over the stream that creeps
Windingly by it, so the quiet maid
Held her in peace.
---Keats, Endymion. Bk. I. ll. 446-9

(そして柳の木が/
曲がりくねってそばを流れる川をじっと見守るように、/
そのように、おだやかな乙女は/
静かに落ち着いていた。
───キーツ『エンディミオン』第一巻、四四六ー四四九行)

"Parting they seem'd to tread upon the air,
  Twin roses by the zephyr blown apart
Only to meet again more close, and share
  The inward fragrance of each other's heart."
---Keats, Isabella. st.x.

(別れにのぞんでも二人はともに空中を歩むようだった。/
並んで咲いた二本の薔薇は、そよ風に吹き離されても、/
ふたたびもっと近く寄り添い、/
お互いの心の内の香を分かちあう。
───キーツ『イザベラ』第十連)


雄大なる投入法
   2010/2/17 (水) 08:18 by Sakana No.20100217081806

2月17日

「朝のように美しい女、というシェリーの描
写は単純ですね」
「朝だけでは漠然としている。明瞭、精緻、
繊細の点において、キーツの作例に及ばざる
こと遠し」
「しかし、美人の全体を一字に形容するとい
う点では雄大なる投入法というべきです」
「単純にして委曲をつくさざるの恨みなきに
あらず」
「詳説して散漫に流れ、支離滅裂になるより
はましでしょう。朝は日常使い慣れた陳腐な
言葉のようですが、実はよく明眸皓歯の美人
をよく言いおおせています」
「漱石にかぶれ、わけのわからぬことを口走
る男がいた。夜のように醜くかった」

"There was a Woman, beautiful as morning."
---Shelly, Laon and Cythna. Can. I. st.xvi.
(女がいた、朝のように美しかった。
──シェリー「レイオンとシスナ」第一章第十六節)

"Be she fairer than the Day
Or the flowery meads in May;
If she be not so to me,
What care I how fair she be!
---George Wither, Faire Virtue. Sonnet iv.
(彼女が日の光よりも、/
また五月の花咲く野よりも美しかろうと、/
ぼくにとってそうでなかったら、/
彼女の美しいことに何の意味があろう。
───ウィザー『美徳姫』ソネット四番)



誇大連想
   2010/2/20 (土) 09:45 by Sakana No.20100220094536

2月20日

「<罪深い大陸を抱えた地球め>というのは
痛快な誇大連想ですね。思わず笑ってしまい
ました」
「地球にたとえられた大人物は誰だ」
「サー・ジョン・フォルスタッフ(Sir John 
Falstaff)。シェイクスピア『ヘンリー四世、
第二部』で、皇太子ハリーがフォルスタッフ
を評した言葉です」
「なるほど、フォルスタッフは大兵肥満の老
騎士。臆病者で、大酒飲みで強欲、狡猾で好
色だが、限りないウィット(機知)に恵まれ、
時として深遠な警句を吐く憎めない人物だ」
「ワーズワスは美しい若者を荒野の豹や熱帯
の海に躍る海豚にたとえましたが、これはど
のようにお考えですか」
「漱石は何と言っている?」
「西洋人はいざ知らず、吾人はこの投入法を
以て成功せるものとは認めがたかるべしと。
点がからいですね」
「明治時代の日本人の感覚だな。21世紀の
日本人なら豹や海豚にたとえられた若者をか
っこいいと思うだろう」

"He was a lovely Youth! I guess
The panther in the wilderness
Was not so fair as he;
And when he chose to sport and play,
No dolphin ever was so gay
Upon the tropic sea.
---Wordsworth, Ruth.
(彼は美しい若者だった。/
荒野の豹も/
彼ほど美しくはなかった。/
そして、彼が戯れ遊ぶとき、/
熱帯の海に躍るいるかも/
彼ほど生き生きとはしていなかった。
───ワーズワス『ルース』)

"Why, thou globe of sinful continents, 
what a life dost thou lead!"
---2 Henry IV. Act II. sc. iv. ll. 309-10
(おい、罪深い大陸を抱えた地球め、
どんな生活をお前はしているんだ!
───シェイクスピア『ヘンリー四世、第二部』第二幕第四場、三○九ー三一○行)

"A highly respectable man as a German,
Who smoked like a chimney and drank like a Merman."
---Ingoldsby Legends. The Lady of St. Odille.
(煙突のようにたばこを吹かし、人魚のように酒を呑んだ/
ドイツ人としてはご立派なお人。
───『インゴルズビー伝説』「聖オディールの唄」)



持続的投入語法
   2010/2/23 (火) 08:14 by Sakana No.20100223081434

2月23日

「<最後に多少長きに失するの嫌いあれども、
持続的投入語法の好例を挙げて、この章を終
わるべし>として、漱石先生はテイラー『聖
なる死』から引用しておられます」
「人は泡沫(バブル)であると泡沫を人に投
入している」
「ただ死ぬために生まれるという以外にこの
世での仕事は何もなかったのだ──とは随分
厭世的ですね。このような厭世的投入に漱石
先生は共感されたのでしょうか」
「半ば共感、半ば反発だろう」
「人は泡と化しても、その変化は大したもの
ではなく、前にそうであった以上に無になる
ということはほとんどあり得ないと考えると
なにがしかの気休めにはなりますね」

"A man is a bubble (said the Greek proverb), which Lucian represents
with advantages and its proper circumstances, to this purpose, saying;
All the world is a storm, and men rise up in their several generations
like bubbles descending from God and the dew of heaven, from a tear and
a drop of man, from nature and Providence, and some of these instantly
sink into the deluge of their first parent, and are hidden in a sheet
of water, having had no other business in the world but be born, that
they might be able to die; others float up and down two or three turns,
and suddenly disappear and give their place to others; and they that
live longest upon the face of the waters are in perpetual motion,
restless and uneasy, and, being crushed with the great drop of a cloud,
sink into flatness and a froth; the change not being great, it being
hardly possible it should be more a nothing other than it was before.
(以下省略)
---Jeremy Taylor, Holy Dying, chap. I

「人は泡沫(あぶく)である(とギリシアの
諺に言う)が、ルキアノスはさらに巧みに、
いかにもそれらしい有様を付け加えて、次の
ように言っている──この世界全体は嵐であ
り、人は神と天の露から、人間の涙と雫から、
自然と天の摂理から落ちてくる泡沫にも似て、
それぞれの世代に浮かび上がってくる。これ
らのうちには、たちまちその最初の祖先の洪
水のなかに沈み、一面の水のなかに隠れてし
まう者がいる。ただ死ぬために生まれるとい
う以外にこの世での仕事は何もなかったのだ。
他の人たちのなかには、二、三度浮いたり、
沈んだりし、それから突然消えて、席を他の
人に譲る者もある。そして水面上にいちばん
長く生きる人たちも、落ち着かず、不安で絶
えず動き回って、雲から降る大粒の雫に押し
つぶされて、ぺしゃんこになり、泡と化して
しまう。こうした変化も大したものではない。
前にそうであった以上に無になるということ
はほとんどあり得ないのだから」
───テイラー『聖なる死』第一章)


聖なる生
   2010/2/26 (金) 07:56 by Sakana No.20100226075622

2月26日

「テイラー『聖なる生』はお読みになりまし
たか」
「内村鑑三じゃあるまいし、そんな宗教書を
読むわけがない。念のため調べたが、国会図
書館にも訳書がないよ」
「漱石先生はちゃんと読んでおられます」
「宗教心が強いからではなく、文学論の材料
収集のために読んだのだろう」
「そういえば、前回は持続的投入語法の好例
ということでしたが、以下の二例は投出語法
の実例です」
「まったく本の虫(bookworm)だ」
「<私(ひそ)かに思ふ。耶蘇教徒が神に人
格を附し、キリストを以て神を代表し一見吾
人と類似の生物に対するが如き口調を以て祈
祷の礼を執行するが如き皆<詩的真>を発揮
せんがためのみ。余は固(もと)よりその教
義の理非を云々するにあらず、ただその手段
が偶然と故意とに論なくよく詩の目的に合致
せるを説くのみ。もしこの意義を本位として
彼を目するとき宗教もまた一つの詩に過ぎず」
「神を怖れぬ不信心者め」
「基督教は宗教改革によりその詩的光彩の幾
分を失へり。故に宗教改革は開化の趨勢上詩
が科学に白旗を掲げたる第一段階と見るを得
べく、今後宗教が更に哲学と結び、科学に近
づくに従ひ、所謂<文芸上の真>は<科学上
の真>に接し来りて、遂には詩の滅亡に終る
ことあるやも計るべからず」
「漱石はアンチクリストだが、詩の滅亡につ
いての予言はあたっているかもしれない」

"God is present by his essence; which, because it is infinite,
cannot be contained within the limits of any place; and because
He is of essential purity and spiritual nature. He cannot be
undervalued by being present in the places of unnatural uncleaness."
---Jeremy Taylor, Holy Living. chap. i
(神はその本質によって存在し、その本質は無限であるため、いかなる
場所にあっても、その限界内に押し込められることはありえない。また
神は本質的な純粋さと霊性をもつので、不自然に不潔な場所に存在し給
うと考えられる場合でも、そのことによって不当に低く評価されること
はあり得ない。
───テイラー『聖なる生』第一章)

"God is everywhere present by his power. He rolls the orbs of heaven
with His hand; He fixes the earth with His foot; He guides all the
creatures with His eyes, and refreshes them with His influence. He
makes the powers of hell to shake His terrors, and binds the devils
with his Word, and throws them out with His command; and sends the
angels on embassies with His decrees."
---Ibid.
(神はその力によってあらゆる所に存在する。神はその手で天体を転がし、
その足で大地を固定させる。神はその眼であらゆる生き物を導き、その影
響力でそれらに新たな力を与える。神はその恐ろしさによって地獄の権力
者たちを震撼させ、その言葉によって悪魔たちを縛り、その命令によって
彼らを追放し、その布告によって天使たちを使節として派遣する。
───同)


自己と隔離せる連想
   2010/3/1 (月) 09:17 by Sakana No.20100301091749

3月1日

「第三章<自己と隔離せる連想>にすすみま
す」
「第一章は<投出語法>、第二章は<投入語
法>だった」
「第三章において説くところは、己を以て物
を解するを主眼とする投出語法にあらず、物
を以て己に適応するを眼目とする投入語法に
もあらず、全く自己なるものを離れたる外物
間の連想なりとす」
「漱石の説明では、文学の材料四種、即ちF
(焦点的印象または観念)の分類は、
 (一)感覚的材料・・・自然界
 (二)人事的材料・・・人間の芝居
 (三)超自然的材料・・・宗教
 (四)知的材料・・・人生問題に対する観
念」となっていた。自己と隔離せる連想とい
うと、主にどの材料になるだろう」
「感覚的材料を解釈するものが正式の形様で
す」
「同種の感覚的材料の中から彼我の類似を発
見するだけのことならそれほど難しくないか
な」
「例えば、西洋人に柿を説明するのに、植物
学上の煩雑な説明をする代わりに、形の似た
トマトを選んで、両者を連想の圏内に持って
くれば説明が容易になります」


生ける自然の面影
   2010/3/4 (木) 09:42 by Sakana No.20100304094238

3月4日

「自然界に存在する類似のものを結びつけて
連想するのは比較的容易なことです」
「柿からトマトを連想する程度のことなら簡
単だが、その効果は投出語法や投入語法に比
べて目立たない」
「しかし、便宜なる文学的手段として遂に作
家の閑却する能はざるものとすと、漱石先生
は言っておられます」
「それは小説の方法論、技術論にすぎない」
「文学者は周囲の現象を観察し、多くの材料
を収集分類して秩序正しく脳みその保存箱に
収めなければなりません」
「わかりきったことだ」
「書斎にとじこもって、万巻の書を渉猟し、
古人の成句を綴っているだけでは古人の連想
を踏襲するだけであって、一字の新機軸すら
表すことはできません」
「わざわざイギリスに留学しておきながら、
書斎にとじこもっていたのは誰だ」
「漢学者流の気炎を借りて云えば、山川川岳
は地の文にして、日月星辰は天の文なり。吾
人の文章はこの大自然のうちに活躍せんこと
を要す」
「英文学を研究しているのに漢学者流の気炎
をあげるのは如何なものか」
「テニソンやスチーブンソンは戸外に出て、
人知れぬ苦心を重ねながら生ける自然の面影
を写しました。その結果、テニソンの詩は人
の知る如く連想の美を以て名高く、スチーブ
ンソンの文は巧みに読者を動かす警句に富ん
でいるそうです」
「手荷損、素知異文損」



自己に隔離せる連想語法の優劣
   2010/3/7 (日) 08:30 by Sakana No.20100307083022

3月7日

「自己と隔離せる連想語法において、最も注
意すべきことが二点あります」
「その二点とは?」
「(第一)説明材料が被説明材料よりも具体
的に明瞭なるべきこと。
(第二)両者の結合に毫も不自然の痕跡の止
むべからざること」
「例をあげて解説してくれ」
「ミルトンとフッドの詩句を引用します。優
劣を比較してください」
「詩人としてはミルトンのほうが有名だ。ミ
ルトンの詩句のほうがすぐれているにちがい
ない」
「名声に欺かれてはいけません。漱石先生の
判定ではフッドの詩句のほうが文学的価値に
おいて数倍優れているそうです」
「なぜだ?」
「ミルトンは黒雲を一領の衣に見たてていま
すが、これは不自然です。しかも、表は黒色、
裏は銀色とし、その銀色をもって月光をあら
わすというのですから、読者はついていけま
せん」
「想像をたくましくすれば理解できる」
「一方、フッドは、雲間を洩るる月影を、溌
剌たる銀鱗が網にかかりて閃くにたとえた手
際は見事です。網の魚なる感覚材料は、月の
光なる同じく感覚的なる材料を助けてその印
象を一層明かに客観化しております。ミルト
ンの理屈的仮説的連想の到底及ぶところでは
ありません」

"Was I deceived, or did a sable cloud
Turn forth her silver lining on the night?"
---Milton, Comus. II. 221-2

「私が欺かれたのか、それとも黒雲が/
銀色の裏地を返して夜に見せつけたのか?
───ミルトン『コーマス』二二一ー二二二行」

"And so the tempest scowled away,---and soon
Timidly shining through its skirts of jet,
We saw the rim of the pacific moon,
Like a bright fish entangled in a net,
Flashing its silver sides.
---Hood, A Storm at Hastings

「こうして嵐は荒れ模様のまま去っていった。──まもなく/
黒白の裾(「鳥羽玉の裳」)を通してひっそりと輝く/
静かな月の縁(へり)が見えた。/
網にからめられた魚がまばゆく。/
銀色の脇腹をひらめかすように。
───フッド「ヘイスティングスの嵐」一六一ー一六五行」


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「夏目漱石の『文学論』を読みとく」 長谷部さかな 著
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