夏目漱石の『文学論』を読みとく

長谷部さかな 著
 
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組み合わせ
   2009/12/10 (木) 09:06 by Sakana No.20091210090608

12月10日

「組み合わせも文芸上の真を表現する方法で
す」
「文芸上の真とは何だ」
「詩人画家等の想像的創作物です。彼らは現
実の世より蒐(あつ)め得たる材料を綜合し
てこの世に存在しないものを描出する手際を
持っています」
「具体的な例は?」
「ミルトンのサタン(悪魔)、スウィフトの
ヤフー(人間の形をした醜悪な動物)、シェ
クスピアのオベロン(妖精の王)、タイティ
ニア(妖精の王妃)、カリバン(醜悪な怪物)
などです」
「鬼もそうかな」
「鬼は日本人の民衆の想像的創作物というべ
きかもしれません
「科学的立脚地からすれば不合理な存在だ」
「文学的立脚地では鬼から受ける感情、感覚
は生命を有して偽りなきものであり、完全な
る文芸上の真を具有しております」
「わかった。では鬼の文学の代表作は何だろ
う?」
「うーん、『桃太郎』かな」


文芸上の真は時とともに推移す
   2009/12/13 (日) 08:43 by Sakana No.20091213084309

12月13日

「文芸上の真は永遠に不滅ではありません」
「なんだと?」
「時とともに推移するものです。文学の作品
にして今日は真なりと賞せられても、明日は
急に真ならずと非難を受けるものが多いこと
は日常的によくみかけられます」
「そんなに移ろいやすいとは、いい加減なも
のだな」
「たとえば、坪内逍遙は『小説神髄』におい
て、<小説の主脳は人情なり、世態風俗これ
に次ぐ>として勧善懲悪小説を否定しました
が、最近は勧善懲悪小説が見直されています」 
「そうかな?」
「写実(リアリズム)を重視するとかいって、
勧悪懲善小説ばかり流行させてどうするので
すか。私は『小説神髄』以後の日本文学は社
会に大いなる害毒を流しつつげたと思ってい
ます」
「漱石もその一人か」
「漱石先生は別格です」
「しかし、『文学論』で<fの幻惑>などと
いう小説の手口を研究し、実作に応用してい
るのはけしからん」


「自然の真」と「文芸上の真」
   2009/12/16 (水) 08:52 by Sakana No.20091216085223

12月16日

「俳人水原秋桜子が『「自然の真」と「文芸
上の真』という論文を発表しています」
「高浜虚子の主宰する『ホトトギス』からの
独立宣言で、『馬酔木』昭和六年十一月号に
掲載された」
「ということは、秋桜子は漱石先生の『文学
論』に触発されてその論文を書いたのでしょ
うか」
「タイトルから判断して『文学論』に目を通
していた可能性はある」
「漱石先生が『吾輩は猫である』や『坊ちゃ
ん』を発表したのは『ホトトギス』です。そ
の『ホトトギス』から独立するのに『文学論』
の一部を借用したというのはちょっとひっか
かります」
「漱石は『文学論』を執筆して、帝国大学か
ら独立し、作家になった。後進の者が、独立
宣言に『文学論』の内容を借用してくれれば
むしろ喜ぶだろう」
「喜ぶかどうかはわかりませんが、苦笑いは
するかもしれません」


自然主義
   2009/12/19 (土) 09:59 by Sakana No.20091219095902

12月19日

「自然の真か文芸上の真か──どちらをとる
かといえば、文芸上の真だというのが水原秋
桜子の主張だと思います」
「自然の事実を観察し、真実を描くために、
あらゆる美化を否定するという自然主義の思
想に反する」
「秋桜子によれば、<十九世紀の終から二十
世紀の初にかけて勢力のあった自然主義に於
ては、『真実』といふ言葉はたゞ『自然の真』
といふ意味に用ゐられてゐた。・・・現今
(昭和六年)の文壇に於て、此の自然主義を
認める者はいない>」
「文芸上の真は時とともに推移するものです。
文学の作品にして今日は真なりと賞せられて
も、明日は急に真ならずと非難を受けるかも
しれません」
「すると、自然主義も反自然主義も不滅では
ないということになる」
「田山花袋『蒲団』は自然主義不朽の名作で
す」
「日本文学史のテキストでは一応そうなって
いるが、今どきの若者にとってはナニ、ソレ
?だ」


草の芽俳句
   2009/12/22 (火) 08:13 by Sakana No.20091222081309

12月22日

「<『文芸上の真』が著しく激減せるを感ず
る>と水原秋桜子が指摘した俳句は、高野素
十の、

 甘草の芽のとびとびの一とならび 

です」
「いわゆる草の芽俳句、あるいは、ただごと
俳句として有名になった句だ」
「<自然の真>の他に、何物の加えられたる
ありやと秋桜子は書いていますが、どう思い
ますか」
「それまで誰も注目しなかった<甘草の芽の
とびとびの一ならび>を作者が発見し、俳句
にしたてたのはお手柄だ。典型的な写生句で、
眼前に景が浮かんでくる」
「高浜虚子がとなえた俳句理念の花鳥諷詠に
はそっていますが、<文芸上の真>という観
点からすればものたりないというのが秋桜子
の見解です。如何とりはかりましょうか」
「よきにはからえ」


12月25日
   2009/12/26 (土) 07:30 by Sakana No.20091226073059

折り返し点

「漱石先生の『文学論』講義はようやく前半
を終了、折り返し点を迎えました」
「時間がかかりすぎているのではないか」
「それほど遅くもありません。実際の講義は
三十六年九月〜三十八年六月までの二十二ヶ
月間。約二年を要しております」
「すると、中間点までは約一年弱か」
「私のバーチャル受講体験は、昨年の10月
31日からですから、約一年強。若干、遅め
ですが、まあ、許容範囲内といってよいので
はないでしょうか」
「ただ受講しただけではダメだ。内容をきち
んと理解した上で、それが身についていなけ
ればならない」
「その点は不安があります。若いときと違っ
て、記憶力が減退し、忘れっぽくなっていま
す」
「これまでの講義前半で学んだことはなにか」
「せめて目次だけでもおさらいしておきます」


第一編 文学的内容の分類
 第一章 文学的内容の形式
     (F + f)心理的説明
 第二章 文学的内容の基本成分
 第三章 文学的内容の分類及びその価値的等級
第二編 文学的内容の数量変化
 第一章 Fの変化
 第二章  fの変化
 第三章 fに伴ふ幻惑
 第四章 悲劇に対する場合
第三編 文学的内容の特質
 第一章 文学的Fと科学的Fの比較との比較一汎
 第二章 文芸上の真と科学上の真


12月28日
   2009/12/28 (月) 09:48 by Sakana No.20091228094824

後半の展望

「『文学論』のマラソンは最後まで完走でき
そうか」
「私のこれまでの経験によれば、どんなに難
解な書でも前半を読破することさえできれば、
後半は比較的楽にもいけるはずです」
「大丈夫かな?」
「講義の後半の目次は次の通りです。第四編
と第五編だけですから、なんとかなるでしょ
う」
「講義の前半で文学的内容の分類、数量変化、
特質を論じて、第四編で文学的内容の相互変
化──となると、文学論則ち文学的内容論と
いうことになる」
「しかし、最後の第五編は集合的Fについて
です」
「やはり、F(焦点的観念または印象)がミ
ソかな」

第四編 文学的内容の相互関係
 第一章 投出語法
 第二章 投入語法
 第三章 自己と隔離せる聯想
 第四章 滑稽的聯想
  第一節 口合
  第二節 頓才
 第五章 調和法
 第六章 対置法
  第一節 緩勢法
  第二節 強勢法
   [附]仮対法
  第三節 不対法
 第七章 写実法
 第八章 間隔論
第五編 集合的F
 第一章 一代における三種の集合的F
 第二章 意識推移の原則
 第三章 原則の応用(一)
 第四章 原則の応用(二)
 第五章 原則の応用(三)
 第六章 原則の応用(四)
 第七章 補遺
  (一)文界に及ぼす暗示の種類
    (い)物質的状況と文学/Elizabethan Age
        (ろ)政治と文学/仏国革命
    (は)道徳と文学
  (二)新旧精粗に関して暗示の種類
  (三)暗示の方向とその生命


12月31日
   2009/12/31 (木) 10:00 by Sakana No.20091231100038

大晦日

「今日は大晦日です」
「大晦日定めなき世の定めかな 西鶴」
「この一年は文学論の復習で貴重なアドバイ
スを頂きありがとうございました」
「漱石が来て虚子が来て大晦日 子規」
「せめて大晦日位は文学論の復習をお休みに
しましょう」
「去年今年貫く棒の如きもの 虚子。休まず
貫け」
「身辺整理もしなければなりません。たまに
は休ませてください」



謹賀新年
   2010/1/3 (日) 07:45 by Sakana No.20100103074522

1月3日

「本年もよろしくお願いします」
「今年の抱負は?」
「鈍根劣器のもの、かなうべからずではあり
ますが、初心を忘れず、文学論の完読を目指
したいと思っております」


修辞学──観念の連想
   2010/1/6 (水) 08:47 by Sakana No.20100106084756

1月6日

「文芸上の真についてはすでに論じました。
次にこの真を伝える手段について研究したい
と思います」
「肝心なのは、真か偽かだ。手段について論
及するのは邪道ではないか」
「西洋では修辞学(Rhetorica)が発達し、教
養の中核を成しています」
「東洋ではそんなうさんくさい学問は邪道と
みなされている」
「しかし、俳諧指南書、詩の作り方、小説の
方法などのハウツーものがかなりでまわって
おります」
「嘆かわしい風潮だ」
「<されども坊間に行はるる通俗の修辞学は
徒(いたずら)に専断的の分類に力を用ゐ、
その根本の主意を等閑視する傾向あれば、そ
の効著(いちじるし)からず>と漱石先生も
仰っています」
「通俗の修辞学はダメだが、漱石の説く修辞
学は効果があるというのか」
「文芸上の真を発揮する幾多の手段の大部分
は一種の<観念の連想>を利用したものにす
ぎないそうです」
「<観念の連想>?」
「ええ、これは<意識の波>や<fの幻惑>
とともに漱石先生の重要な発見だと私は思い
ます」


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「夏目漱石の『文学論』を読みとく」 長谷部さかな 著
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