『文学論』──自己本位の読み方のまとめ

長谷部さかな 著
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倦厭
   2017/3/21 (火) 08:43 by Sakana No.20170321084334

03月21日

「意識推移の原則というが、そもそもなぜ意
識は推移してしてしまうのだろう」
「意識の特徴は移り気で、飽きっぽいことで
す。わんぱくな子どもの言動を観察すれば、
そのことがよくわかります」
「なるほど飽きっぽいのか。だから、風の中
の羽のようにFからF’へ、F’からF’’
へコロコロ変わっていく」
「文学論の研究者はそれを前向きに考えるこ
とにしましょう。漱石先生は作風をどんどん
変えていきました。俳人芭蕉もそうです」
「芭蕉は何と言っている?」
「上手になる道筋たしかにあり。師によらず、
弟子によらず、流によらず、器によらず、畢
竟句数多く吐き出したるものの、昨日の我に
飽きける人こそ上手なり(『篇突』許六)」
「昨日の我に飽きるべしなどと言われたって
今まで真面目に師の話を聞いていた弟子たち
は困ってしまう」
「師にならって飽きればいいでしょう」
「そうはいかない。芭蕉や漱石のような飽き
っぽい天才にはとてもついていけない」
「不易流行という俳諧理念やそれまでの蕉門
句風を全否定する<かるみ>の理念がおわか
りになりませんか」
「そんなことはわかっているが、もう聞き飽
きた」


焦点意識の競争
   2017/3/24 (金) 08:27 by Sakana No.20170324082746

03月24日

「個人的な意識だけでなく、集合的意識Fに
も競争があります」
「復讐や粛正を叫ぶ集団ヒステリーのような
集合的意識Fへの加担はごめんこうむる。君
子は中庸し、小人は中庸に反す」
「集合的意識Fの主導権争いでは、中庸と称
して、中立の立場をとることは許されまん。
赤か白か、右か左か、どちらかを選んでくだ
さい」
「断る。争い事はきらいだ」
「そのような中途半端な意識では天下はとれ
ません」
「天下なんかいらない。信長、秀吉、家康の
如き徒輩にくれてやる」
「そんなへらず口をたたくと、豊国大明神や
東照大権現から神罰が下されますぞ」
「では、見ざる、聞かざる、言わざるの三猿
主義で中庸することにしよう」
「どうぞご自由に。でも、焦点意識に競争あ
り、という集団的Fの現実だけは忘れないで
ください」


政治と文学
   2017/3/27 (月) 07:38 by Sakana No.20170327073830

03月27日

「ある文学的暗示の原因結果を論じるとき、
単に文学的潮流のみを眼中に置いて、他の
活動を閑却してはいけません」
「政治や経済などは不純。この一筋と脇目
もふらず芸術的文学に精進するべし」
「そんな芸術のための芸術のような生き方
は今どき流行りません。政治、経済、科学
などの分野で発現する人間活動のなまなま
しい状況にも注意を払い、集合的意識Fの
変遷ぶりをしっかり把握してください」
「明治四十四年(1910)、幸徳秋水らの大
逆事件のとき、<わたしは世の文学者とと
もに何もいわなかった。以来わたしは自分
の芸術の品位を江戸戯作者のなした程度ま
で引き下げるに如(し)くはないと思案し
た>と永井荷風は述懐している(『花火』)。
荷風だけではない、漱石も鴎外も何もいわ
なかった」
「その頃、漱石先生は修善寺の大患で、病
牀にありました。大逆事件で発言するどこ
ろではありません。お亡くなりになったの
は大正五年(1916)ですが」
「政治的にみれば、ちょうどいい時に死ん
でいる。荷風のように第二次世界大戦後ま
で生き延びていれば、空襲やら統制やらで
ひどい目にあっていただろう。もしかした
ら、文学者としての評価にも疵がついたか
もしれない」


道徳と文学
   2017/3/30 (木) 10:09 by Sakana No.20170330100927

03月30日

「最後に道徳と文学との関係についての問い
かけです。道徳と文学は没交渉であり、まっ
たく関係がないのでしょうか、それとも関係
があるのでしょうか」
「もちろん、関係ありだ。漱石も『文学論』
の補遺で、道徳と文学について論じ、さらに、
明治四十四年には大阪で、『文芸と道徳』と
いう演題で講演を行っている」
「でも、『文学論』では『ジェーン・エア』
などを例にあげて、不道徳文学擁護をしてお
り、講演では、自然主義文学派によるありの
ままの本当をありのままに書く正直という美
徳をみとめています。漱石作品でも『それか
ら』は不道徳作品の類でしょう」
「しかし、漢学の家で育った漱石は仁義礼智
信の道徳が身についていたはず。それが漱石
の限界ともいえるが、そのおかげで彼の文学
には安定感がそなわっている」
「森鴎外とならんで日本文学の安定感を支え
る双璧ですね」
「鴎外も『舞姫』は不道徳文学だ」
「でも、日本文学で名作とされているのはも
っとひどい不道徳文学のオンパレードです。
『蒲団』『新生』『羅生門』『痴人の愛』
『肉体の門』『人間失格』『雪国』『金閣寺』
『太陽の季節』『万延元年のフットボール』
ーーーこんなものを前途ある青少年にすすめ
る意義はどこにあるのでしょう」
「文学は人生の鏡なんだ。青少年はせいぜい
不道徳文学を読みあさって、文学の毒にたい
する免疫力をつけることだ。それ以外に日本
文学を読む効用は期待できない」


宿題ーー序
   2017/4/2 (日) 07:08 by Sakana No.20170402070847

04月02日

「『文学論』のまとめに残された時間が一ヶ月
になりました。どうしましょう」
「問題提起がいろいろあったが、そのほとんど
はきちんと解明されていない。そのうちのいく
つかをひろいあげて宿題にするしかないだろう」
「わかりました。それではまず、序で問題提起
されたにもかかわらず、結論が出ていない疑問
をあげておきます。まず<A:根本的に文学と
は如何なるものぞ>」
「それは永遠のスフィンクスの謎だよ」
「答は出なくても、問い続けることに意味があ
るのかもしれませんね。次に<B:漢学に所謂
文学と英語に所謂文学とは到底同定義の下に一
括し得べからざる異種類のものたらざるべから
ず」
「両定義を併記して比較すればよいだけのこと
だが、そんな定義さえも漱石はしていない」 
「<私は文学なるものは科学の如く定義をすべ
き性質のものでなく、下し得るものとも考えへ
て居らない>と言っておられます(『英文学形
式論』)」
「では、それも宿題だ」
「三番目は、心理的に文学は如何なる必要あつ
て、この世に生れ、発達し、頽廃するか。社会
的に文学は如何なる必要あつて、存在し、隆興
し、衰滅するか」
 「それは、『文学論』の中である程度の答が出
ている。宿題とせず、注意をうながすだけでよ
い」
「そうですね。情緒の復起(あるいは再発)を
する人がこの世にいるかぎり、心理的にも社会
的にも文学が衰滅することはなさそうです。で
もこれだけの大問題の扱いを私が勝手に片付け
てしまうわけにはいきませんから、これも宿題
にしておきます。だいたいこんなところですか」
「もう一点、肝心なことを忘れている。神経衰
弱、狂気と文学との関係だ」
「それは忘れたまでいいでしょう」


宿題ーー文学的内容の分類(第一編)
   2017/4/5 (水) 08:37 by Sakana No.20170405083734

04月05日

「第一編文学的内容の分類。ここでの問題は、
漱石先生が発見してくださった法則や分析の
方法が我が国の文化遺産として継承されてな
いことではないかと私は思います」
「それは弟子たちや研究者たちの責任だ」
「第一編の宿題として考えられるのは次の三
点です。
C:凡そ文学的内容の形式は(F+f)なる
 ことを要すという法則の吟味。
D:文学的内容の基本成分の分類方法の吟味。
E:文学的内容の分類方法の吟味
「いずれも文学界で後世の作家たちに吟味さ
れ、継承されていないというのか」
「ええ、残念ながら」
「それは継承するだけの価値がないからでは
ないのか」
「継承する価値があるかどうかについての議
論もほとんどなされていないと思います」
「漱石が『文学論』で何やら妙なことを書い
ているが、よくわからん。かといって無視す
るわけにもいかないから、とりあえず漱石全
集の一巻におさめ、棚上げしておこうといっ
た程度か」
「まあ、そんなところでしょう」
「きみ自身はどう考えているのだ?」
「私は(F+f)の法則、文学的内容の基本
成分の分類方法、文学的内容の分類方法のい
ずれもしっかり継承し、見直したいと思って
います」


注意ーー文学的内容の数量変化(第二編)
   2017/4/8 (土) 08:31 by Sakana No.20170408083115

04月08日

 「第二編文学的内容の数量変化は、幻惑がキ
 ーワードです」
 「文学論即ち幻惑論か」
 「私たちのF(焦点的印象又は観念)とf
 (情緒的要素)は、時間の経過によって変化
し、また、実人生における直接体験と読書観
 劇などによる間接経験によっても変化します。
このことは一部の作家はわかっていて、読者
をうまく幻惑するよう言語による表出を工夫
しているはずです」
 「それなら第二編は宿題なしでもよいかな」
 「でも、自分の思想が絶対に正しい真理だと
思い込んでいるだけで、それが幻惑によって
影響された概括的真理にすぎないことがわか
 っていない作者もいます。それに、読者の大
 多数はそもそも作者によって幻惑されている
 ことがわかっていません」
 「では、注意をうながしておけばよいだろう」
 「悲劇や喜劇による幻惑にも注意を払ってく
 ださい。私は、文学的内容の形式だけではな
 く、人間一生における(F+f)を終焉に向
けてどう持って行くかが大事だと思います」
 「そんなことは、ここに持ち出さないで、個
 人的な宿題として処理してくれ」


宿題ーー文学的内容の特質(第三編)
   2017/4/11 (火) 09:24 by Sakana No.20170411092413

04月11日

「第三編文学的内容の特質は、文学的Fを
科学的Fと比較することによって文学的内
容の特質をあきらかにする試みです」
「その試みは成功しているのか?」
「凡そ文学者の重(おもん)ずべきは文芸
上の真にして科学上の真にあらず、という
主張には説得力があります。文芸上の真を
表現するためには誇大法や省略法などの手
段を用いることが許されます」
「科学上の真を考えないという主張は文学
無用論につながりかねないのではないか?」
「人間には情緒(f)があります。焦点的
印象又は観念Fに情緒(f)を復起ないし
再発させる読者がこの世にいるかぎり文芸
上の真をもとめる人はいなくなりませんー
ーーしたがって、文学は不滅です」
「第三編の宿題はあるのか?」
「二点あります。第一に哲学上の真、第二
に断面的文学」
「文芸上の真と科学上の真とは独立させて
哲学上の真を考えるべきだとは漱石は言っ
てない」
「しかし、文学と科学を比較する場合、哲
学を無視するわけにはいきません」
「漱石も『文学評論』では「十八世紀の英
国哲学」を論じているし、『文芸の哲学的
基礎』という講演もしている」
「ところが、『文学論』第三編では文学者
対科学者について論じるにあたって、哲学
者を科学者に含めてしまっています。これ
ではつじつまがあいません。文芸上の真と
科学上の真に加えて哲学上の真について考
察することを宿題にしたらどうでしょうか」
「了解。もう一点の断面的文学とは?」
「和歌、俳句、漢詩のように一時的の消え
やすき現象をとらえて表現する文学です。
『文学論』にはその文例がほとんどありま
せんが、そのような文例を文学的内容の分
類や基本成分の分類にしたがって収集する
ことを私個人的な宿題として自分に課した
いと思います」
「勝手にしろ」


宿題ーー文学的内容の相互関係(第四編)
   2017/4/14 (金) 07:13 by Sakana No.20170414071309

04月14日

「第四編文学的内容の相互関係の宿題は何と
いっても文学の大目的です」
「それは間隔論で言っている」
「文学の大目的の奈辺に存するかは暫く措く。
その大目的を生ずるに必要な第二の目的は幻
惑の二字に帰着す」
「第二の目的の幻惑は宿題にしなくてもよい
のか」
「読者をいかに幻惑するかはそれぞれの作者
が考えることです。第二編で注意事項にあげ
ておけば、十分でしょう。第四編の宿題にす
るほどのことではありません」
「文芸上の真を伝える手段として連想法と写
実法とのどちらがすぐれているかという比較
は?」
「幻惑論で片付けることができます」
「漱石は連想法のなかでも特に滑稽的連想を
応用して『吾輩は猫である』を書き、商業的
成功をおさめた」
「その反動で晩年には滑稽的連想法に嫌気が
さし、ひかえめにしています」



注意ーー集合的F(第五編)
   2017/4/17 (月) 08:38 by Sakana No.20170417083821

04月17日

「第五編集合的Fの宿題はどうしましょうか」
「自己本位で考えれば、わざわざ宿題を残す
必要はない」
「でも租庸調の昔から私たちは納税者として
の国民の義務は守らなければなりません」
「最近はまた応仁の乱の頃のようにきなくさ
い世の中になってきたが、今のところは兵役
の義務がない。それだけでもありがたいと思
え」
「日本人の集合的Fや人類の集合的Fが今後
どのように推移していくかを見守ることを宿
題にするべきではないかと思います」
「そんなことなら宿題とはせず、注意事項に
とどめておけばよい」
「では、焦点意識の競争、暗示の法則、倦厭
の法則を考慮しながら、人類の集合的Fの推
移を見守っていくことにしましょう」
「気休めにしかならないだろうが、それでも
まあよしとするか」



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「『文学論』──自己本位の読み方のまとめ」 長谷部さかな 著
 Copyright © 2015 Sakana Hasebe